労働

敵の物理的なプレッシャーがかかっても、練習通りのことを淡々とこなすのが本物の技術 -千田善『オシムの戦術』を読む-

千田善『オシムの戦術作者: 千田善出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2010/05メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 19回この商品を含むブログ (14件) を見る』を読んだ。 著者の親戚の関係である吉田戦車が、表紙を書いている。 ジャケ買いしちゃうぜ(マテ…

なぜ日本は女性ホームレスが「少ない」か。あるいは、「自立」・「自律」再考 -丸山里美『女性ホームレスとして生きる』について-

丸山里美『女性ホームレスとして生きる』を読んだ。女性ホームレスとして生きる―貧困と排除の社会学作者:丸山 里美発売日: 2013/04/03メディア: 単行本 珍しい女性ホームレスを扱った本書だが、その実態を論ずるだけではなく、女性ホームレスの存在を通して…

「ジョブ型正社員」は、先ず隗より始めよ、みたいな話。  -濱口桂一郎『若者と労働』に対する感想-

濱口桂一郎『若者と労働』を読んだ。 著者の本(ただし全部新書!)を扱うのは、三冊目となる。 本書は、 日本のメンバーシップ型雇用の歴史的成り立ちと、現在抱えている問題点とを、 「入社」というまさにメンバーシップ型雇用社会に特徴的な事柄を糸口にし…

雇用の常識、探ってTRAY・戦後日本の雇用編 -海老原&荻野『日本人はどのように仕事をしてきたか』雑感-

海老原嗣生・荻野進介『名著で読み解く 日本人はどのように仕事をしてきたか』を読む。 戦後に出版された(日本の)雇用系「名著」の中身と、その本の歴史的な存在意義を解説している。 だが、それだけではなくて、その「名著」の著者たちの「コメント」(反論?…

年休100%消化方法と、残業がデフォな労働慣行という厚い壁(ニッポンの雇用を考える) -水町勇一郎『労働法入門』雑感-

水町勇一郎『労働法入門』を読む。 実に良くまとまっている。 そして、著者の人柄も良く出ているように思う。 例えば、「労働審判審査って何?」とかいっちゃう人は、さっさとこれを買うなり借りるなりして読むべき。 興味のわいたところだけ。 会社と労働者…

「そして、謎は残った」・・・日本の雇用に潜む二重構造 (あとは職業教育について) -濱口桂一郎『日本の雇用と労働法』を読んで-

濱口桂一郎『日本の雇用と労働法』を読む。 内容は、前に書かれた新書である『新しい労働社会』と重複する箇所が多いが、前著が欧州との比較を意識しつつ、日本の目指すべき「新しい労働社会」への構想が書かれていたのに対して、本書は、日本の戦前〜現在ま…

有能な人材は有効に使おうね、の話 -あと、天下りについて- 沼上幹『組織戦略の考え方』を読む

沼上幹『組織戦略の考え方』を読む。 組織あるあるだが、優秀な技術者ほど根回しみたいな雑事まで大量に集中しちゃって、結果的に有能な技術者がコンセプトを考えるなどの「創造的」な仕事に費やせる時間が少なくなってしまう(52、53頁)。 だから、上司…

「ミクロ」に関する解釈はともかく、マクロの方は納得。 -海老原嗣生『学歴の耐えられない軽さ』を読む-

海老原嗣生『学歴の耐えられない軽さ』を読む。 著者は、「企業人となってから生かせるような学問 (略) もし、そういう学問を教えてくれる大学があったなら、社会人になる予定の学生たちも、喜んで勉強をするだろう。その証拠に、企業で即生かせる内容が主…

タダで生きることの知恵、そして、タダで即戦力を得ようとする愚かさについて -松本哉『貧乏人の逆襲!』・雑感-

松本哉『貧乏人の逆襲! -タダで生きる方法-』を読む。 実に実践的。 そして、説得的。 野宿の際は、サングラスかけて寝るのも手である(26頁)。 起きてるかどうか、分かりにくいから。 実際効果的だ。(夜なら、まずバレない) ヒッチハイクの方法。 道端で…

消費者代表の問題と、再度、職業教育について 濱口桂一郎『新しい労働社会』(8)

■労働者代表を、政治的決定プロセスへの参加させる■ 労働者代表と消費者代表を一名ずつ参加させ、その間の真剣な議論を通じて日本の社会経済政策を立案していくこと (210頁) これが著者の提案です。本書執筆当時、経済財政諮問会議には、民間として経済…

労働組合強化のために -EUの事例から-  濱口桂一郎『新しい労働社会』(7)

■労働組合強化のために -EUの事例から- ■ 「そこで現に働いている人たちがそこのルールを作っていくべきだと思っています。そのためには、そこで働いている人たちがその場で団結しなければしょうがないのですね」という著者の主張を叶えるには、どうすべきで…

利害を怖れないこと、ポピュリズム批判と労組について 濱口桂一郎『新しい労働社会』(6)

■労働組合再生のために -企業内への包摂か、業界・職種同士の連帯か-■ 現代の日本において労働組合は、メンバーを正社員に限定しており、非正規労働者や管理職などの人々は排除されています。この問題をどうすべきでしょうか。 著者は次のように主張していま…

社会保険と労働時間 -ベーシック・インカムを唱える前に- 濱口桂一郎『新しい労働社会』(5)

■ベーシック・インカムと、労働における「承認」の側面■ 著者は、労働を社会からの承認を受けるのために必要なものと考えています。そのため、社会的承認の機会を奪うベーシック・インカム論には否定的です。曰く、「怠惰の報酬を社会一般に要求するならば、…

「職業教育」を日本の戦後労働史から考える(長い注付) 濱口桂一郎『新しい労働社会』(4)

■「公的給付」の中身、そして「宿題」■ 前稿で取り上げた公的給付の中身について、まず書きます。著者曰く、 欧州諸国の福祉国家とは、年金や医療といった日本と共通する社会保障制度だけではなく、育児、教育、住宅といった分野においても社会政策的な再分…

「新しい労働社会」をシングルマザーの視点から考える 濱口桂一郎『新しい労働社会』(3)

■非正規労働問題の解決について■ (引用者注:EUの有期労働指令では)本来臨時短期的でない業務に有期契約を用いることで解雇規制を潜脱することを防止するため、有期契約の更新に正当な理由、一定期間の上限、一定回数の上限を定めることとしているのです…

「正社員」というレール、中小(零細)企業という路傍 濱口桂一郎『新しい労働社会』(2)

■本書のおさらい。「正社員とその家族」というレール■ 第2章について触れる前に、あらかじめ本書の肝について、おさらいをしましょう。 本書が指摘する日本の雇用制度は、次のようにまとめられます。 日本では、特定の職務に規定されない、組織のメンバーと…

「休む時間」より「残業代」を優先する、日本という国 濱口桂一郎『新しい労働社会』(1)

濱口桂一郎『新しい労働社会 雇用システムの再構築へ』岩波書店(2009/07)■「休む時間」より「残業代」を優先する、日本という国■ 健康のための労働時間規制という発想は日本の法制からはほとんど失われてしまったのです。こうした法制の展開が、労働の現場で…

「漏給」問題への対策と、Jカーブ効果批判 白波瀬佐和子(編)『変化する社会の不平等』

白波瀬佐和子(編)『変化する社会の不平等―少子高齢化にひそむ格差』東京大学出版会 (2006/02) ・佐藤俊樹「爆発する不平等感―戦後型社会の転換と「平等化」戦略」■何でいまさら、「格差」が論じられたのか■ 90年代の終わりから日本では不平等感の爆発が起…

【自己責任論=精神論】と「濫給」問題 湯浅誠『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(5)

■マクロ経済からの視点■ ならばどうすればいいのでしょうか。「自己責任論批判の作法と戦略」(『こら!たまには研究しろ!!』様)の意見は、これまでの説得法とは別のものです。「若年失業率がこれほど高く,有効求人倍率も悪化の一途をたどるなかでは全員…

自己責任論者への説得方法を考える 湯浅誠『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(4)

■「溜め」を用いても説得は難しい■ しかし、努力というものは、その範囲が過剰に求められがちです。たとえ、「溜め」が恵まれない境遇でも、これを努力で乗り越えろ、という風な考えは残存します。これが、無責任な発言なら、無視してもよいのです。 しかし…

自己責任論における「努力」の問題 湯浅誠『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(3)

■「溜め」による自己責任論批判■ 本来、昨日分で書評の範囲は終わっているのですが、一応重要なことですので、自己責任論における「努力」の問題、及びその他について少しだけ書きたいと思います。 自己責任論に対する著者の考えは、wikipediaに概要がありま…

なぜ日本には、「シェルター」が少ないのか -宗教に関して- 湯浅誠『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(2)

いつ経済的な転落を経験するかも分らない身の上ですので、備忘録のように、本書の内容を書いていきました。しかし、本書の内容は、いかに生活保護の申請をするか、ということにとどまりません。この本の著者は、「自立生活サポートセンター・もやい」の事務…

借金があっても生活保護は受けられる 湯浅誠『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(1)

どうすれば生活保護を勝ち取ることができるのか湯浅誠『あなたにもできる!本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』同文舘出版 (2005/08) 実のところ、本書の内容については、『京都府職員労働組合』の頁に、書いてあります。抜粋すると、・その1 生…

部下をうつにする、6つの上司の勘違い 吉野聡『それってホントに「うつ」?』

吉野聡『それってホントに「うつ」? 間違いだらけの企業の「職場うつ」対策』講談社 (2009/3/19) 別段、書評というほどのものではないのですが、ある本の中で興味深い箇所があったのでそれについて言及したいと思います。 その本というのは、吉野聡『それっ…