英語が訛って何が悪いか!! -World Englishesのニホン英語のすすめ-

 末延岑生『ニホン英語は世界で通じる』を読む。



 ニホン英語に対する批判として、「日本人の英語のレベルが落ちる」という噴飯ものの批判があるらしい。
 これに対する著者の反論はこうだ(114頁)。
 じゃあ、そう心配する日本人の英語のレベルはどうかのか、と。世界的に見て高いといえるのか。国際的には下から数えたほうが早いではないか。それに、その「レベル」とやらは、何が基準か。アメリカ英語、米語に過ぎないではないか。
 以上が、著者の反論である。
 世界中に、お国英語としてさまざまな、World Englishes があるのであり、どれが正統などと拘るのは、野暮な考えに過ぎない。
 そうした著者の理念に、賛同したい。



 著者はこうも述べる。
 ニホン英語を潰そうと考える言語学者たちは、世界中で失われ続けるマイナーな言語の生命は惜しむくせに、一方で、自然に生まれ育ってきたニホン英語は、その芽を摘もうとしている、と(114頁)。


 
 著者によると、カタカナ発音のニホン英語も、きちんとネイティブ(この場合はアメリカ人)に伝わるらしい。
 (このネイティブという言い方自体、World Englishesの観点からすれば問題だけどねw)
 単語だけ聞くと不明な語も、文中で聞くと相当理解してくれる(127頁)。
 個々の単語ばかりの練習にとらわれてはいけないのだ。

 ちなみに、mildのような語の場合、「マイル」と[d]を省略して発音(子音の削除)をすると、かえって理解してくれなかったケースもあったという。



 大切なこと。
 「ニホン英語」も「和製英語」も、わざわざ広める必要はない。ただ、どんな相手にでも、遠慮なく、そして堂々と使うこと(130頁)。
 多分蓮實重彦御大も賛同してくれよう。
 うん。



 著者はあるとき、チョムスキーの文法理論の信奉者に、笑われた(137頁)。
 著者が作った自動英語の教科書の冒頭に、命令形の項目を載せたことに対してだ。
 曰く、命令文は"深層構造"が一番複雑だから、子供が理解できるわけない、というのだ。
 対して著者は、母と子は、互いに命令形で伝達しあっているのに、という。
 この著者の発想は、ウィトゲンシュタインの「石版!!」という言語の使用のことを考えれば、正しい。

 幼児が「パパ」とか「ママ」というとき、それは、両親を呼んでいる、言い換えれば、自分に注目するよう命令しているのだ。
 (ちなみに、著者はチョムスキーに直に会ったそうで、チョムスキー自身や生成文法自体への悪印象はない模様。)