松本龍・著(日経BP環境経営フォーラム・編)『環境外交の舞台裏』を読む。
著者は、就任から2日間で生物多様性やCOP10の資料を買い込んで勉強し、「下手な英語」のスピーチの練習をしたという(4頁)。
本書に書いてあるけど、決して環境に対する意識が低い人ではない。だがさすがに、この分野の勉強は急ごしらえにやるしかなかったようだ。
英語については、自身述べている通りなのだろう。
そんな人が、いきなり国際会議の議長をやるのだから、心中察するものがある。
そんな状況下でどのように、成功に導いたのか。
最終的に、会議の大成功の鍵を握った「議長提案」だが、この作成に著者は加わっていない(66頁)。
作成はチームに任せ、自身はその議長提案を以下に諸国の代表者たちに手渡すかに、神経を注いだという。
自身の能力と文言を踏まえれば、この考えは賢明だろう。
著者が会議において、相手の意見を尊重して発言に耳を傾け、相手に敬意をもって接し議事にあたっていたようだ。
本書を読む限り、そして本書中の関係者の証言を見る限り、それは本当のことと思われる。
一例として、会議進行でミスをした際、著者は素直に、その不手際を会議でわびたという(97頁)。
議長が謝ることは前例がなかったのだが、その行動は議事にもよい効果をもたらしたようである。
著者は、自分が出来ることをきちんとやった。
著者は、こう述べている。
傲慢さが垣間見えると、足元をすくわれかねない (106頁)
著者はウィリアム・サローヤンの「君が人生の時」の一説を引用している(127,128頁)。
この本を読んだ感想も、この著者に対する今の印象も、全て、この引用文に言い表されている。如何なる人間の裡にも美徳を見出し、それを助長してやれ。それは世の中の汚辱や恐怖の為に人にも気付かれぬような所に、悲しみの中に、余儀なく埋もれていたのかも知れないのだ。分かりきったことは無視するがよい。それは明敏なる眼、温情ある心には値しないものだから。如何なる人にも劣等感を感じてはならぬ。また如何なる人にも優越感を抱いてはならぬ。この世の人間は誰だって皆君自身の変身(ヴァリエーション)に過ぎないのだということをよく銘記せよ
ちなみに、自身の出身や養祖父にあたる松本治一郎のことも、本書に書かれてある。