「高齢層(年金生活者)は テレビの情報に左右されやすい」って、本当なの? -あるいは『世論の曲解』的な何か。-

 「現代日本の「テレビ」」という『dongfang99の日記』さんの記事を拝見して思ったのだが、「2000年代以降、仕事を通じた利害関係の網の目から「自由」になった年金生活者が増大し、自ずと家でテレビを見る時間が増えたことで、テレビの政治世論形成における役割が圧倒的に大きくなっている。」云々というのは、実際の所、実証できてるのか。

 ご本人が追記として、「世代とメディア・政治意識の関係に関する実証的な調査などについては、こちらの情報や理解が不十分であると思われるので、色々と批判をいただければ幸いである。当然ながらテレビは若年層にとっても中心的なメディアであり、インターネット上でも「みのもんた」をより過激化したような意見や主張は少なくない」と恐らく妥当なことを仰っておられるので、いらないツッコミかもしれないが、一応書いておこう。



 ブログ主がその証拠として提出しているのは、注の「2005年の郵政解散選挙」の「朝日新聞の調査記事」だ。
 曰く、

朝日新聞社が22、23日に実施した全国世論調査によると、今回の総選挙では、テレビの視聴時間の長い層ほど自民候補に投票した人が多い傾向にあることが浮かび上がった。・・・・・視聴時間と総選挙の投票先との関係を見ると、「2時間以内」で自民候補に投票したと答えた人は40%、「2〜4時間」では44%、「4時間以上」では47%と、視聴時間が長いほど多くなっている。視聴時間は男性より女性の方が長めだったが、投票先との関係では男女ともほぼ同じ傾向を示した。また、テレビの視聴時間は年代別でみると、高年齢層ほど長く、70歳以上では「4時間以上」が3割近い。調査では高齢者や女性で自民候補への投票が多めという結果も出ている。テレビ報道が直接、自民候補への投票を促したとはいえないものの、視聴時間が長い、こうした層が自民大勝を後押しした側面もうかがえる」(「TV長く見た人、総選挙で自民候補に投票 朝日新聞社世論調査」2005年10月26日朝刊)

とのこと。
 よーく読めば分かるが、実は、「2005年選挙で高齢者ほど自民に投票」を証明するようなデータではない。
 「テレビの視聴時間の長い層ほど自民候補に投票」と「テレビの視聴時間は年代別でみると、高年齢層ほど長く」とを掛け合わせているのだが、高齢層→視聴時間が長い→自民に投票し勝ち」をきちんと証明しているわけではない。
 かろうじて、「調査では高齢者や女性で自民候補への投票が多めという結果も出ている」と書いてあるぐらい。



 実際の所どうなのか。
 2005年の事例を確認してみよう。簡単に。

 まず2004年度時点での朝日新聞の記事「無党派・民主支持層で支持離れ 小泉政権3年で本社調査」。
 曰く、「年代別では、「小泉離れ」の傾向は20〜50代で幅広く見られる。これら「現役世代」の支持率は当初8割を占めたが、この1年で軒並み4割台まで落ち込んだ。6割前後を維持している60代以上の高齢者層と対照的だ。」
 一見すると確かに、高齢者への支持層が高いようにも見える。
 にしても、、この当時は「現役世代」の支持が低まっていたんですね。

 次に、2007年の「参院選調査報告Vol.04 首相・内閣の評価の分析」という菅原琢氏による分析(但し図が見えないw)。
 曰く、「小泉前首相若年層に人気で、高齢者層にはさほど人気がない一方、安倍現首相は60歳以上の高齢者にもっとも好感を持たれており、50歳以下では満遍なく人気がない」、「自民党の支持率、得票率などは、高齢者層、農村部ほど高くなるという傾向は、長い間、半ば常識であった。これを覆したのが前首相である。」だそうな。
 朝日新聞での上記のことをあわせて考えると、2004年時点での高齢者支持の高さというのは、旧来からの自民党支持層によるものであり、小泉躍進はむしろ、その下の世代によるものであることがうかがえる。
 (この内容は、菅原氏の『世論の曲解』という氏の本にも書いてあったと思います。)

 さらに、同年の「政党と政党リーダーの評価vol.01」というレポート。
 「3.年代別感情温度」を見る限り、小泉氏は決して高齢者ウケが言い訳ではなく、むしろ、若年層になればなるほど好感度が高い様子。
 
 上記のざっくりした情報を元にする限り、"高齢者=メディアの影響を受けやすい"云々は、実証できていないと思われる(多分)。
 むしろ、2005年の小泉首相のときの場合、その躍進は、主に、若年層によるものであることが伺える。
 で、メディアに動かされやすいのは、むしろ現役世代、特に若年層の可能性のほうが、多分高い、と思う。


 
 念の為、先の大阪市長選挙のときの事例も。
 「2011年大阪市長選挙結果分析」と題された分析。
 曰く、「70歳以上 の 51.5 % が 平松氏 に投票 ・ 30代 の 74.2% が 橋下氏 に投票」、「結果として高齢者比率の高い区で惜敗率が高まった」と書かれている。
 これは、上記2005年の選挙の結果と似た現象だ。



 本当は、2009年選挙の際の、民主党に対する高齢者支持率を調べなきゃいけないところですが、めんどくさいのでやりません。(誰かやっといてください。)
 まあ、高齢者になると暇でテレビばっか見てるから、こうした類のメディアの影響を受けやすいぜ」が実証的に必ずしもそういえないことが分かればそれでいいので。



 あと、『世論の曲解』について。
 あの本は良書ではあるけれども、農村/都市、改革/反改革の軸は取り上げる一方で、リベラル/ソシアルの軸は殆ど不在となっている。
 実際、社会保障や雇用の政策への言及は殆どない。
 権丈善一先生の読者なら、ツッコミを入れるべきところではないかしら(だって、福田内閣を軽ーく、スルーしてるんですよw)
 ネット上に優れたソシアル系の論客があれほどいながら、そこらへんを突っ込む人は殆ど(誰も?)いなかった
ので、一応書いておこう。

 (恐らく未完)