いい意味でタイトル詐欺、あるいは、まっとうな経営学。 -F・ヴァーミューレン『ヤバイ経営学』を読む。-

 フリーク・ヴァーミューレン『ヤバイ経営学』を読んだ。
 実に面白い本。
 
 気になった所だけ書いていく。



 会社にいる人間の行動を調べてみたら、けっこう彼らは、会社のデータ(数字)を無視して、代わりに経験や質的な評価、直感によって判断している(32頁)。
 ファスト&スローの二つの思考のうち、前者を採用しているわけだ。

 だけど、そうする方が結果はマシなのかもしれない。
 というのは、人は数字(会社の売上など)については結構間違いだらけに覚えていて、こうしたものを元に意思決定してしまうと、会社全体に損失を与えてしまうかもしれないからだ。
 ファスト思考は結構うまくやってくれる。



 意外と知られていないこと。

 例えば、買収(91,92頁)。
 50億ドル以上の案件121件を調査した結果、59%のケースで、市場全体の影響を排除したリターンは買収とともに低下している。
 12ヶ月たったあとには、71パーセントの案件でマイナスになっている。

 買収のイメージって華々しいけど、実態は、おおよそこんなもんらしい。



 次に人員削減の効果の話。

 人員削減(「リストラ」)は意味が無いどころか、多くの場合利益率を悪化させている(197頁)。
 しかも、人員削減が会社の利益になる業界やビジネスは見つかっていない。

 リストラはたいてい失敗しているってわけだ。

 ただし、人員削減をうまくやることも出来るらしい(188頁)。
 但しそれは、会社が常に社員を大切にしていることが前提だが。。。
 例えば、公平で公正な人事制度、あるいは長期有給休暇制度や社内託児所など。
 うん。難易度高いね。

 社員は大切にね。



 多くのアナリストが転職後の実績の低下を取り戻すのに、5年ほど掛かっている(206頁)。
 アナリストは個人事業主のように見られがちだけど、会社を変えるだけで実績が大きく低下する。
 人は一人で仕事をしているんじゃない、っていうのが、よく分かる研究結果だ。

 組織の中に埋め込まれているノウハウの蓄積や、同僚との関係、人間同士の暗黙のプロセスだったりの影響だろうと考えられる。
 組織から出てしまえば、周囲とのつながりと共に失われてしまう。
 そうした理由によるものだという。

 こうした組織のなかにある、見えにくい「蓄積」を、先程の人員削減はもたらしてしまう。
 これも、人員削減のデメリットの一つだといえる。



 次に株価について。

 株価は、インセンティブ制度導入を表明した後だと、上昇する。
 だがしかし、実際に制度を導入しなくても、株価は高いまんまとなる(176頁)。

 投資家やアナリストなどは、企業が発表している内容については気にするが、企業が実際に何をしているのかはあまり気にかけないのである。
 市場は、期待(予想)で動く、ってわけだ。

 マーケットとは、そのような世界である。
 つまり、インタゲ政策は正し(ry



 配給会社の話。

 研究によると、配給会社幹部が事前にヒットを予想した映画には、会社もより多くの経営資源を投入していた(178頁)。
 そして統計的に分析すると、そういう映画がヒットしたのは、経営資源を優先的に配分したことが、唯一の理由だった。

 予言の自己成就の典型だね。
 そうなると、大コケした映画とかは(ry



 新手の経営手法 (シックスシグマとかね) が流行る理由について。

 研究によると、経営者が流行の経営手法を導入すると、経営者の報酬が増えるそうな。
 だが、流行の経営手法の多くは、たいてい役に立たないのだという。

 しかしそれでも、こうした手法を導入する経営者は革新的と他人の目には映る。
 そして、会社の取締役会も、経営者の実績を称え報酬額を引き上げる(190頁)。

 実態ではなく、イメージによって、経営や経営者の報酬が動いてしまう不具合。

 (本書では ISO9000の取得はイノベーションを疎外しているんじゃないか、っていう話題も取り上げられているが、詳細はこちらのブログさんの記事を)



 ストックオプションのデメリットの話も出てくる。

 ストックオプションを会社の経営者に与えると、彼らは、プラスの儲けは気にするが、マイナスの大きさはどうでもよくなる(159頁)という。
 会社が10億損しようとも、100億損しようとも、経営者のストックオプションはどちらにしても無価値になるだけだからだ。
 なので、プラスの利益ばかりを目指して、結果、リスクに対する感覚が鈍り、博打を打ってしまいがちなのである。



 研究開発部門のお仕事について。
 研究開発部門の多くを占める仕事は何か。
 イノベーティブな商品を生み出すこと?
 実は、そうじゃない。

 研究開発部門を持つ企業は、研究員が何も発明できなくても、競合のマネをするのはずっと簡単である(217頁)。
 これが研究開発部門を会社が持つ、大きなメリットなのである。
 
 競合の発明を盗めるようになって、その技術を自社の製品やサービスによりよく生かせるようになる、というわけだ。

 あなたの会社の研究開発部門は、画期的なイノベーションを起こすためというよりも、そのイノベーションを学び、研究し、模倣するためにあるのである。
 じゃないと、ライバルに置いてけぼりにされちゃうからね。



 昔に比べて市場競争は厳しくなった、と嘆く経営人たちに辛いお知らせがある。

 5700社を調べた結果、今日の経営者が直面している市場が昔よりも変化が激しいと言う事実は無い(225頁)。
 当然、競争優位性を獲得したり維持したりすることが、過去に比べて難しくなったわけではない。

 昔はよかった、は、大抵幻想であるが、その一パターンか。

(未完)