植物の武器(タンニン、カプサイシン)も平気で摂取する人間 -稲垣栄洋『たたかう植物』を読む-

 稲垣栄洋『たたかう植物: 仁義なき生存戦略』を読んだ。 

たたかう植物: 仁義なき生存戦略 (ちくま新書)

たたかう植物: 仁義なき生存戦略 (ちくま新書)

 

 内容は、紹介文の通り、

じっと動かない植物の世界。しかしそこにあるのは穏やかな癒しなどではない!植物が生きる世界は、『まわりはすべてが敵』という苛酷なバトル・フィールドなのだ。植物同士の戦いや、捕食者との戦いはもちろん、病原菌等とのミクロ・レベルでの攻防戦も含めて、動けないぶん、植物はあらゆる環境要素と戦う必要がある。そして、そこから進んで、様々な生存戦略も発生・発展していく。多くの具体例を引きながら、熾烈な世界で生き抜く技術を、分かりやすく楽しく語る。

という内容。
 植物好きはもちろん、植物に興味のない人でも面白く読めると思う。

 以下、特に面白かったところだけ。

セイタカアワダチソウも本場では

 セイタカアワダチソウは、北アメリカ原産の外来雑草である。その原産地の北アメリカでは、セイタカアワダチソウは、けっして大繁殖していない。 (引用者中略) そもそも、祖国の北アメリカの草原では、けっして背も高くなく、一メートルにも満たない高さである。そして、秋の野に咲く美しい花として人々に親しまれている。猛威を振るうどころか、セイタカアワダチソウが咲く草原の自然を守ろうと、保護活動まで行われているくらいである。 (30頁)

 セイタカアワダチソウ、本国ではずいぶんおとなしいようだ。*1

肉食動物は植物の毒を防御できない

 人間は植物を食べる動物である、ある程度、植物の毒に対する対抗手段ができあがっている。しかし、イヌやネコは、もともとは肉食動物であり、野生では植物を食べることはない。そのため、植物の毒に対する感覚や防御システムが発達せず、毒に対してまったくの無防備なのである。 (139頁)

 ネギなどを食べさせてはいけない理屈はこんな感じである。*2

タンニン悲喜こもごも

 タンニンには、昆虫が持つ消化酵素を変性させて、消化不良を起こさせる。こうして害虫の食欲を減退させて、葉を食べられないようにしようとしているのである。 (引用者中略) このタンニンは、人間にとっては下痢止めの薬効がある。タンニンが食物のたんぱく質と結合し、収斂させて下痢を止めるのである。 (109頁)

 虫に食われまいとする草の成分が、人の下痢を止めるとは、実に皮肉なことである。*3

鳥は辛さを感じない

 哺乳動物は辛いトウガラシを食べることができない。しかし鳥は、辛さを感じる味覚がないためトウガラシを平気で食べることができる。おそらくトウガラシは、種子を運んでもらうパートナーとして哺乳動物ではなく鳥を選んだのである。 (160頁)

 味覚というのは、何を食べるべき、あるいは、食べるべきでないかを分けるセンサーであり、そのセンサーを哺乳動物は発達させた。
 そのため、哺乳動物は辛いトウガラシを食べることができない。
 しかし鳥は、辛さを感じる味覚がないためトウガラシを平気で食べることができるわけだ。
 もちろん、人間は唐辛子を堂々と食べているのだが。*4

 

(未完)

*1:とりあえず、アメリカのケンタッキー州ネブラスカ州の「州の花」であるのは間違いなさそうである(https://statesymbolsusa.org/symbol-official-item/kentucky/state-flower/goldenrod )。ただ、goldenrod全体が「州の花」となっている。つまり、「アキノキリンソウ属の植物」のすべてがそうであって、セイタカアワダチソウはその中の一つ、という位置づけということになる。

*2:タマネギなどのネギ属にはタマネギの香味と関係する物質が含まれている。これらは「赤血球のヘモグロビンを酸化する作用がある、といわれている。これらにより、赤血球の脂質膜がダメージを受け、赤血球内にハインツ小体が形成されることがある。これにより溶血性貧血や血色素尿などを惹き起こすことによるものとされている」(大島誠之助・左向敏紀「禁忌食 (その1) タマネギなどのネギ属とイヌ・ネコの健康」https://ci.nii.ac.jp/naid/130004565637 )。

*3:福原達人(氏)のホームページの記事(https://ww1.fukuoka-edu.ac.jp/~fukuhara/keitai_low/4-6.html )によると、

タンニンと食害の関係は、森林で大量に落下するために生態的な重要性が高いブナ科の果実(ドングリ・クリなど)で多数の研究がある。濃度が低い果実が食害動物に好まれる例(ex. Smallwood & Peters 1986)、高濃度の果実を給餌すると生存率が下がる例(Shimada & Saitoh 2003)、濃度が高いことで菌類の侵入が妨げられる例(Takahashi et al. 2009)などが知られている。

とのことである。タンニン(正確にはタンニン酸アルブミンのことだが。)の止瀉作用は厚生労働省も認めている(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/01/s0117-9d14.html ) 

*4:塚原直樹は次のように述べている(「コラム7 カラスの習性を利用したカラス対策 その1」https://crowlab.co.jp/column/column007.html )。

嗅覚が悪いことを踏まえると、臭いでカラスに忌避させる対策は難しいと言える。嗅覚を刺激する酢酸を大量に振りかけた餌を提示する実験を行ったところ、カラスは強烈な臭いを気にせずに食べていた。唐辛子に含まれる辛味成分のカプサイシンを用いた対策もあるが、鳥類はカプサイシンに対する感受性が非常に低いため、カラス対策に有効とは思えない。