2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

「あいつの待遇落とせ」ではなく、「俺たちの待遇上げろ」 斎藤美奈子『それってどうなの主義』(1)

斎藤美奈子『それってどうなの主義』白水社 (2007/02)本書の内容については、『一本釣り BOOK&CINEMA』様も書評されています。 本書は、文の集成ですので、その本から何を取り上げたかで、その人の興味なども分るかと思います。ちなみに、先の評者は、次の…

「快楽による堕落」というイメージ、及び「労働」における苦痛 番外編4(藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』)

藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』(4)へよせて 「快楽による堕落」というイメージについては、安楽への全体主義の後継としての【動物化】の議論にも同じことが言えるかもしれません。 『受動的な健忘』様は、次のように述べています。それでもオ…

【「安楽」への全体主義】と【時間をかけること】 番外編3(藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』)

藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』(4)へ寄せて 藤田省三はデルス・ウザーラについて、「マルクス主義のバランスシート」で言及しています。 デルス・ウザーラとは、20世紀初頭のシベリアに生きた漁師で、ロシアのシベリア探検隊の案内を引き受…

日本国憲法と【納税の義務】 番外編2(藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』)

番外編1(藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』)へ寄せて 「税金を納める」という義務を権利と見誤った人の割合が42.2パーセントにも達しているのである。これは義務意識の浸透を表しているのではなく、憲法上の権利と義務の分別という、公の基本…

政府(ガバメント)と国民国家(ネーション・ステート)の混同 番外編1(藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』)

藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』(1)へ寄せて■宮崎の主張に対する再検討■ 絶賛した後ですが、宮崎哲弥の2000年の「世界価値観調査」を用いた主張を、検討します。その主張とは、「過度の国家依存に傾(かし)いだパラサイト・ナショナリズム…

【「安楽」への全体主義】のなかの苦痛 藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』(4)

■【「安楽」への全体主義】と労働■ 【「安楽」への全体主義】と労働の関係について、最後に書いておきたいと思います。 藤田省三は、1982年の文章で、次のように書いています(『緩々亭の日記』様より孫引き)。一人一人が皆んな働き過ぎる程働き、運動…

「転用」の問題 藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』(3)

■「転用」について■ 藤田は、「偶然にくる或る不幸」を引き受けるという姿勢に言及した後、マルクスがいた時代のことを語ります。彼がいた当時の、「失業者の社会的不幸」を放っておけない感覚について語るのです。また、「現代でいえば、地球上にそれと似た…

マルクス主義・リルケ・ショー 藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』(2)

■「マルクス主義のバランスシート」■ 本論の目的は、宮崎哲弥による、藤田省三の意見の引用の仕方の問題です。 宮崎哲弥が引用したのは、「マルクス主義のバランスシート」という、藤田省三の、経済学者・塩沢由典との対談です。この対談はどんな内容だった…

意味づけられない「ナショナリズム」論 藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』(1)

・藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』みすず書房 (1997/10)■宮崎哲弥の藤田省三への言及■ 宮崎哲弥は、「? 戦争と「善き生」…安易な国家依存に抵抗」(『朝日新聞』2003.8.13.〜21.文化欄、シリーズ《ナショナリズムを問い直す》より)…

ブックガイドより註の方が重要? 柄谷行人ほか著『必読書150』(2)

■柄谷行人による田山花袋『蒲団』紹介 『蒲団』の内容自体はフィクションなのは周知だが、「明らかなのは、これが世間に衝撃を与えるという目的をもって書かれたということ」である。世間受けを狙う花袋。書いた内容なら作者は恥ずかしくなかった。だが、「…

『必読書150』を読む際の3つの注意点 柄谷行人ほか著『必読書150』(1)

・柄谷行人ほか著『必読書150』太田出版 (2002/04) 話題になった本ですので、これに関する紹介は不要と思います。 感想は一言、【この本で取り上げられた必読書って、誰が読むんだ?】となるはずです。これは、選んだ当人たちが言っているのですから間違いな…

言葉通りの「個人主義」、そしてロビー活動の薦め 樋口陽一『人権 (一語の辞典)』(2)

■「自分主義」ではなく、「個人主義」■ 「個人一人一人」の「選びなおし」に開かれている文化と、そうでない文化とは、「等価ではありえない」という主張も実に重要です(72頁)。例えば多文化主義に対し、「少数者への帰属」だからじゃなく、「そもそも個…

人権、あるいは企業献金について 樋口陽一『人権 (一語の辞典)』(1)

樋口陽一『人権 (一語の辞典)』三省堂 (1996/04)■国家が生んだ人権、あるいは企業献金について■ 本著は、少ない頁数ながら、ぎっしりと内容の詰まった名著です。人権を、思想的な観点から、そして、法制度的観点から読んでいるのが特徴です。本書に関するす…

CIAの現実とアメリカの外国語音痴 落合浩太郎『CIA 失敗の研究』(2)

本著は、上記のような問題を生んだのは、CIAだけではないといいます。議会や「諜産複合体」のロビー活動、共和・民主の両政党、政府、マスコミ、罪無きものはいない状態だ、と述べられます。諜報活動へ比較的消極的だった民主党は、特にクリントン政権が…

官僚機構としてのCIA 落合浩太郎『CIA 失敗の研究』(1)

落合浩太郎『CIA 失敗の研究』文藝春秋 (2005/6/20) 冷戦後、ソビエト連邦という仮想的をなくしてもなお、体質を変えられなかった米国諜報機関。その硬直した体質が浮かび上がる本です。 もちろん、「この世界の厳しさは、何件阻止したとしても、一件阻止に…

マングローブの復讐譚 出雲公三『カラー版 バナナとエビと私たち』(2)

■マングローブの怒りとしての【下痢】■ 確かに、現実的には「生水を口にした少年が腹を壊した」とするものでしょう。しかし、氷を口にするシーンとおなかを壊すシーンとの間に、マングローブの伐採されたシーンが挟まれることで、その、意味づけは変容します…

なぜフィリピンの子供たちは、エビの頭を食べるのか 出雲公三『カラー版 バナナとエビと私たち』(1)

出雲公三『カラー版 バナナとエビと私たち』岩波書店 (2001/10) 「日々の生活のなかで口にするあふれるような食品の向こうに、どんな人たちの暮らしが息づいているのか、どんな問題が起きているのか」。この問題提起がテーマとなる本書では、小学生たちが自…

映画は追悼しない - ダニエル・シュミットと"ヘップバーン" 蓮實重彦『映画論講義』(6)

■ダニエル・シュミット、または追悼ならざる追悼■ 「ダニエル・シュミットは死なない 追悼を超えて」の章を見てみましょう。 著者はまず、亡くなったダニエル・シュミットの映画について、次のように言います。男性が女性を後ろから抱える姿勢が愛を生じさせ…

グルダットと、映画への道 蓮實重彦『映画論講義』(5)

■グル・ダット、あるいは映画の道を目指さない幸福について■ 「大胆さと技法について」の章は、映画の覇権をめぐる緊迫した雰囲気を脱して、単純かつ楽天的とも取れるテーゼを述べています。映画において大胆さが許されるということ、それは、技術の問題だ、…

イーストウッドと50年代映画 蓮實重彦『映画論講義』(4)

■映画の覇権と、イーストウッドの行方■ 「21世紀の映画論」の章では、「伊藤大輔から山中貞雄への覇権の移行」というテーゼが出てきます。このテーゼは、映画の視覚的効果重視から、視覚効果の物語への従属へ、という世界的な流れをあらわしています。著者は…

テマティスム映画批評と、監督の個性 蓮實重彦『映画論講義』(3)

■ホークス・フォード・ルノワール、及び主題の現れ方について■ 小津映画に見られた、女たちの優位という意味でならば、ハワード・ホークスにも同じことが言えるかもしれません。著者は、「転倒=交換=反復 ハワード・ホークスのコメディについて」の章で、…

小津・ゴダール・女たち 蓮實重彦『映画論講義』(2)

■小津は躍動する■ 試みに、「無声映画と都市表象 帽子の時代」という章を見てみるとどうなるか。この章では、映画における帽子の位置づけを、グリフィス、バルネット、フォード、ムルナウらの映画における帽子をたどることで探求しています。無声映画が、大…

「モンゴメリー・クリフ(ト)問題」と葛藤の気配 蓮實重彦『映画論講義』(1)

蓮實重彦『映画論講義』東京大学出版会 (2008/9/27) 本著は、『整腸亭日乗』様が述べているように、30年前の『映像の詩学』のリメイクとして捉えることのできるだろう「口語篇」です。 もちろん、「シンポジウムや講演会のほとんどが、DVDやVHSによる…

Jカーブ効果を批判した例 番外編:谷岡一郎『データはウソをつく』

酒の「Jカーブ効果」は、ACSH(米国保健科学協議会)のレポート(1993年6月)をその源流としています。このレポートでは、各国の医学関係者、研究機関による研究報告を調べた結果、「適量の飲酒は、死亡率を低下させる」という結論を下しています。このレポ…

社会調査のはじまりの書 谷岡一郎『データはウソをつく』(2)

ほかに、『mark-wada blog』様も取り上げているエピソードですが、こんなのもあります。 連合軍の戦闘機が独軍に次々撃ち落された。何とか帰還した機体を調べた将軍曰く、尾翼のダメージが特にひどい。「尾翼を強化するように」と本国へ打電。本国の「脳ミソ…

具体例から見る社会調査の方法 谷岡一郎『データはウソをつく』(1)

谷岡一郎『データはウソをつく 科学的な社会調査の方法』筑摩書房 (2007/05) 世間に溢れる「社会調査」、このいかがわしい情報をを切り倒していったのが、著者による名著『「社会調査」のウソ』でした。今作は、社会調査の「方法」(注意点など)の紹介に重…

鉄道の20世紀と天皇 原武史『鉄道ひとつばなし』(2)

官への距離、というテーマはどうか。東急の祖・五島慶太と阪急の祖・小林一三という二人の比較から、それが見えてきます。自社への天下りを推進した五島と天下りを嫌った小林、国鉄の構内敷地を間借りする形で駅を作っていった東急とターミナルを国鉄から区…

鉄道をめぐる、茨城と柳田國男の話 原武史『鉄道ひとつばなし』(1)

原武史『鉄道ひとつばなし』講談社 (2003/09) この本についてはすでに、本書の魅力を伝える書評が存在しています。それを見ると、その人がどこを気に入って読んだのかがわかります。 たとえば、『三遊亭らん丈のらん読日記』様は、東京駅があの場所にある理…

「直リンク・無断リンク」問題について 増田真樹 『超簡単!ブログ入門』

「直リンク・無断リンク」問題について増田真樹 『超簡単!ブログ入門 たった2時間で自分のホームページが持てる』角川書店 (2005/01)■内容■ 本書については、ブログについて、年月を過ぎた現在では常識となっているであろう事柄が、書かれています。これをよ…

物語から少し離れて 蓮實重彦『文学批判序説』(3)

著者にとって、物語でない、物語から逸れてしまう要素とは何でしょうか。それは、「虚構の磁場」の章で語られていた、「日常言語」と「詩的言語」に明確な境界線などなく、せいぜい、「事件として環境を垂直に貫くできごと」だけがある、という言葉であるは…