2022-01-01から1年間の記事一覧

ストリート・アートと美術館やギャラリーのアート作品とを分けるものは何か ―毛利嘉孝『バンクシー』を読む―

毛利嘉孝『バンクシー アート・テロリスト』を読んだ。 バンクシー~アート・テロリスト~ (光文社新書) 作者:毛利 嘉孝 発売日: 2019/12/27 メディア: Kindle版 内容は紹介文の通り、 正体不明の匿名アーティスト、全体像に迫る入門書の決定版 というもの。…

『平家物語』にまとわりつく古びた「読み」を剥ぎ取り、「キメラ」のようなテクストのさまを露にする ―大津雄一『「平家物語」の再誕』を読む―

大津雄一『「平家物語」の再誕』を読んだ。 『平家物語』の再誕 創られた国民叙事詩 (NHKブックス) 作者:大津 雄一 発売日: 2013/07/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) 内容は紹介文の通り 「奉公の誠」を語る日本精神の粋、もののふの文学、歴史の進歩と…

かつては中国趣味と結び付いていた盆栽が、次第に日本趣味へと転向していった話 -依田徹『盆栽の誕生』を読む-

依田徹『盆栽の誕生』を読んだ。 盆栽の誕生 作者:依田徹 発売日: 2014/04/28 メディア: 単行本 内容は紹介文の通り、 世界の“BONSAI”その歴史を探る。盆栽はいつから日本の伝統文化になったのか。歴史をひもとき、織田信長や徳川将軍家、明治天皇や大隈重信…

ピカソの是非を問うことは、美術、そして、美術館の是非を問うことにつながる ―西岡文彦『ピカソは本当に偉いのか?』―

西岡文彦『ピカソは本当に偉いのか?』を読んだ。*1 ピカソは本当に偉いのか? (新潮新書) 作者:西岡 文彦 発売日: 2012/10/17 メディア: 単行本 内容は紹介文の通り、 「なぜ『あんな絵』に高い値段がつくのか?」「これって本当に『美しい』のか?」。ピカソ…

考えようによっては、ソメイヨシノという存在も伝統にのっとったもの、と言えなくもない ―佐藤俊樹『桜が創った「日本」』を読む―

佐藤俊樹『桜が創った「日本」』を久々に読んだ。 桜が創った「日本」―ソメイヨシノ 起源への旅 (岩波新書) 作者:佐藤 俊樹 発売日: 2005/02/18 メディア: 新書 内容は紹介文通り、 一面を同じ色で彩っては、一斉に散っていくソメイヨシノ。近代の幕開けとと…

日本イエズス会による軍事計画の実現性は、皆無に等しく、文字通り”絵に描いた餅”だった ―高橋裕史 『イエズス会の世界戦略』を読む―

高橋裕史 『イエズス会の世界戦略』を読んだ。 イエズス会の世界戦略 (講談社選書メチエ) 作者:高橋 裕史 発売日: 2006/10/11 メディア: 単行本 内容は紹介文の通り、 イエズス会はなぜ非ヨーロッパ世界の布教に成功したのか? 彼らが日本やインドなどで採用…

すごいタイトルだが、わりあい内容はまともであるように思う ―岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』を読む―

岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』を読んだ。 反省させると犯罪者になります (新潮新書) 作者:岡本 茂樹 発売日: 2013/05/17 メディア: 単行本 内容は紹介文の通り、 犯罪者に反省させるな―。「そんなバカな」と思うだろう。しかし、犯罪者に即時に…

満漢全席なるものが、清朝の宮廷で皇帝に出された事実はない(その他諸々の話題) -石橋崇雄『大清帝国』を読む-

石橋崇雄『大清帝国』を読んだ。 大清帝国 (講談社選書メチエ) 作者:石橋崇雄 発売日: 2015/06/26 メディア: Kindle版 内容は紹介文の通り、 満洲族の一小国が、飽くなき革新力により、巨大な中華世界を飲み込む。その力は中華世界を越え、中央アジアへ進出…

個人的には、この小池和男批判が一番面白かったような気がする。(*日本女性の労働を歴史的にみる良書) ―濱口桂一郎『働く女子の運命』を読む―

濱口桂一郎『働く女子の運命』を読んだ。(再読) 働く女子の運命 (文春新書) 作者:濱口桂一郎 発売日: 2016/01/15 メディア: Kindle版 内容は、紹介文の通り、 失われた20年以降、総合職というコースが用意された代わりに、“転勤も労働時間も無制限"に働け…

日本語が「ぼかした表現」を好むことの文法的な背景。(あと、相席では黙っていたい。) ―井上優『相席で黙っていられるか』を読む―

井上優『相席で黙っていられるか』を読んだ。 相席で黙っていられるか――日中言語行動比較論 (そうだったんだ!日本語) 作者:井上 優 発売日: 2013/07/25 メディア: 単行本(ソフトカバー) 内容は、紹介文の通り、 「娘と息子、どっちがかわいい?」日本人が首…

ある意味では、マンスプレイニングを論じた先駆的な本ともいえる。 ―タネン『「愛があるから…」だけでは伝わらない』を読む―

デボラ・タネン『「愛があるから…」だけでは伝わらない』を読んだ。 「愛があるから…」だけでは伝わらない―わかりあえるための話し方10章 作者:Deborah Tannen,田丸 美寿々,デボラ タネン メディア: 単行本 内容は紹介文の通り、 男と女の心のすれちがいはお…

解説が作品に屈したら駄目だろう。戦え。解説は作品の奴隷じゃない。 -斎藤美奈子『文庫解説ワンダーランド』を読む-

斎藤美奈子『文庫解説ワンダーランド』を読んだ。 文庫解説ワンダーランド (岩波新書) 作者:斎藤 美奈子 発売日: 2017/01/21 メディア: 新書 内容は紹介文の通り、 名作とベストセラーの宝庫である文庫本。その巻末の「解説」は、読者を興奮と混乱と発見にい…

口紅と戦争との関係の話から、国王が排便しながら接見希望者に対面する話まで -中野香織『着るものがない』を読む-

中野香織『着るものがない』を読んだ。 着るものがない! 作者:中野 香織 発売日: 2006/10/24 メディア: 単行本 内容は紹介文の通り、 ファッションを切り口に、大人の男女の心の機微を描くヒューマン・エッセイ集。 である。 某密林のレビューに、「感覚論に…

基本近世絵画ばかりだが、日本絵画入門としてこの上ない出来である。 -安村敏信『線で読み解く日本の名画』を読む-

安村敏信『線で読み解く日本の名画』を読んだ。 線で読み解く日本の名画 作者:安村敏信 発売日: 2015/06/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) 内容は紹介文の通り、 モノをカタチづくる輪郭線と、画家たちはいかに格闘してきたのか?日本絵画の要諦は線にあ…

パスカルにとって信仰とはどのようなものだったのか、そして、彼の「差別的」なユダヤ人観について -山上浩嗣『パスカル『パンセ』を楽しむ』を読む-

山上浩嗣『パスカル『パンセ』を楽しむ 名句案内40章』を読んだ。 パスカル『パンセ』を楽しむ 名句案内40章 (講談社学術文庫) 作者:山上 浩嗣 発売日: 2016/11/11 メディア: 文庫 内容は紹介文の通り、 一見、近づきやすそうなこの作品は、しかし実際に手に…

「かわいい」を日本の専売特許とばかりみなすのは生産的ではない。その通りだ。 -阿部公彦『幼さという戦略』を読む-

阿部公彦『幼さという戦略』を読んだ。 幼さという戦略 「かわいい」と成熟の物語作法 (朝日選書) 作者:阿部公彦 発売日: 2015/10/09 メディア: 単行本 内容は紹介文の通り、 老人も子どもも持っている「幼さ」の底力!権力の語りに抗う「弱さの声」の可能性…

オペラの歴史を知りたければ、まずはこの本から始めてみてはどうだろうか。そんなオペラ史入門書。 -岡田暁生『オペラの運命』を読む-

岡田暁生『オペラの運命』を読んだ。 オペラの運命―十九世紀を魅了した「一夜の夢」 (中公新書) 作者:岡田 暁生 発売日: 2001/04/01 メディア: 新書 内容は紹介文の通り、 オペラはどのように勃興し、隆盛をきわめ、そして衰退したのか。それを解く鍵は、貴…

「結婚と家族のこれから」を考えるための良書。あるいは「やっぱり夫が家事をしていない日本」 -筒井淳也『結婚と家族のこれから』を読む-

筒井淳也『結婚と家族のこれから』を読んだ。 結婚と家族のこれから 共働き社会の限界 (光文社新書) 作者:筒井 淳也 発売日: 2016/06/16 メディア: 新書 内容は紹介文の通り、 共働き社会では、結婚しない(できない)人の増加、子どもを作る人の減少といった…

「普通のお客にハーモニーはわからない。彼らはメロディーが聴きたい」、まあそうなんだよね。 -岡田&ストレンジ『すごいジャズには理由(ワケ)がある』を読む-

岡田暁生&フィリップ・ストレンジ『すごいジャズには理由(ワケ)がある』を読んだ。 すごいジャズには理由(ワケ)がある──音楽学者とジャズ・ピアニストの対話 作者:岡田暁生,フィリップ・ストレンジ 発売日: 2014/05/26 メディア: 単行本 内容は紹介文の通り…

ちゃんと日本政府に対して、憲法の「再検討」をしてよいと指示していたのに -古関彰一 『平和憲法の深層』を読む-

古関彰一 『平和憲法の深層』を読んだ。(再読) 平和憲法の深層 (ちくま新書) 作者:古関 彰一 発売日: 2015/04/06 メディア: 単行本 内容は紹介文の通り、 改憲・護憲の谷間で、憲法第九条の基本的な文献である議事録は、驚くべきことにこの七〇年間ほとん…

『ザ・タイガース』入門なら、まずこの本を読めば大丈夫そうだな。 -磯前順一『ザ・タイガース 世界は僕らを待っていた』を読む-

磯前順一『ザ・タイガース 世界は僕らを待っていた』を読んだ*1。 ザ・タイガース 世界はボクらを待っていた (集英社新書) 作者:磯前 順一 発売日: 2013/11/15 メディア: 新書 内容は紹介文の通り、 ザ・タイガースは1960年代後半の音楽ブーム「グループ・サ…

共産主義のソ連と金融資本主義のイギリスが中国の抗日をあやつっている、という矛盾した見方を、当時の軍人は抱いていた -戸部良一『日本陸軍と中国』を読む-

戸部良一『日本陸軍と中国』を読んだ。 日本陸軍と中国 (講談社選書メチエ) 作者:戸部 良一 発売日: 1999/12/10 メディア: 単行本(ソフトカバー) 内容は紹介文の通り 陸軍「支那通」──中国スペシャリストとして、戦前の対中外交をリードした男たち。革命に…

外国人に、素朴な丸太小屋風の藁で覆われた小屋みたいに言われていた伊勢神宮。 -井上章一『伊勢神宮』を読む-

井上章一『伊勢神宮』を読んだ。 伊勢神宮 魅惑の日本建築 作者:井上 章一 発売日: 2009/05/15 メディア: 単行本 内容は、紹介文の通り、 神宮はいかにして日本美の象徴となったのか 明治初年、「茅葺きの納屋」とされた伊勢は、20世紀に入り「日本のパルテ…

長髪ルックは、ウッドストックでもまだ15パーセント程度しか普及していなかった -サエキけんぞう『ロックとメディア社会』を読む-

サエキけんぞう『ロックとメディア社会』を読んだ(本当は再読)。 ロックとメディア社会 作者:サエキけんぞう 発売日: 2011/10/15 メディア: 単行本 内容は、紹介文の通り、 エルヴィス・プレスリーの衝撃的なメジャーデビューから半世紀、ロックはテレビ、…

悪臭都市だった平安京から、汲みとり式便所と京野菜の話まで(あと、その他諸々の話題) -高橋昌明『京都〈千年の都〉の歴史』を読む-

高橋昌明『京都〈千年の都〉の歴史』を読んだ。 京都〈千年の都〉の歴史 (岩波新書) 作者:高橋 昌明 発売日: 2014/09/20 メディア: 新書 内容は、紹介文の通り、 平安の都、日本の〈千年の都〉として、今も愛される京都。しかし今の京都には、実は平安当時の…

「一億総特攻」に続かずに、残った本土の日本人が、特攻者たちを都合よく物語化した -一ノ瀬俊也『戦艦大和講義』を読む-

一ノ瀬俊也『戦艦大和講義』を読んだ。久々に。 戦艦大和講義: 私たちにとって太平洋戦争とは何か 作者:俊也, 一ノ瀬 発売日: 2015/04/07 メディア: 単行本 内容は紹介文の通り、 1945年4月7日、特攻に出た大和は沈没した。戦後も日本人のこころに生き続ける…