文学

これが"当事者研究"というものか!! -『べてるの家の恋愛大研究』について、少し-

"当事者研究"というものがある。 Wikipediaでの定義だと、「北海道浦河町にあるべてるの家と浦河赤十字病院精神科ではじまった、主に精神障害当事者やその家族を対象とした、アセスメントとリハビリテーションのプログラム」と言うことになる。 要は、「幻覚…

「国民読書年」という"キモさ"、「活字離れ」な割にネットで活字が読まれすぎている時代に 蓮實重彦『随想』(1)

・ 蓮實重彦『随想』新潮社 (2010/08)■「攻撃的」な随想■ 『随想』というタイトル。表紙には、「エッセ・クリティック」とあります。無論、これは、ロラン・バルトの同題の書物から来ているのですが、当時のバルトは(後の彼と比べて)結構戦闘的でした。 な…

ナボコフによるフローベール変奏 -半過去という倦怠、そして「私たち」という暴力について-

■半過去という倦怠 -ナボコフによるフローベール変奏?-■ 既に、プルーストとフローベールの話をしたと思います。フローベールの文体と技巧を取り入れようとしたのは、プルーストだけではありません。プルーストを介在させる形で、ウラジーミル・ナボコフも、…

コレットによるコスプレと、性愛遍歴について 工藤庸子『砂漠論』(5)

■コレット・コスプレ・性愛■ プルーストは女性的な側面がある云々という話をしましたが、次は女性の作家であるコレットについて。コレットとプルーストの間には親交がありました。ちなみに、著者は、コレットの伝記を翻訳してもいます。 「15歳年長のアンリ…

プルースト『失われた時を求めて』の書き方、読み方について 工藤庸子『砂漠論』(4)

■「後輩」プルーストのパスティーシュ■ プルーストは、さきのバルザックとフローベールのそのまた後輩に当たります。彼の鋭敏な知覚と感性は、作家の文体にも向けられています。プルーストは、優れたフローベール論を書き残しています。これをめぐって、ティ…

バルザックとフローベルの文学観 -世界を丸ごと貪ろうとした人/散文によって世界から自立しようとした人 工藤庸子『砂漠論』(3)

■バルザックとフローベール、小説観が違いすぎる■ 先に、バルザックとフローベールは、両人ともに脚フェチだよという話をしました。しかし、この二人、小説の作法がまったく違います。かたや、濫作も構うまいといわんばかりに書きまくる仕事の速いバルザック…

『ランジェ公爵夫人』、あるいは、足フェチ作家バルザックによる足の小説について 工藤庸子『砂漠論』(2)

■『ランジェ公爵夫人』、あるいは、足フェチ作家バルザックによる足の小説について■ 本書は、オリエントへの憧憬というのが主題の一つとなっております。西欧人たちの持つオリエントへの憧れというべきものです。冒頭の「砂漠論」と、最後の一編となる「『ラ…

"非・非実在女性"の快楽のために、あるいは「べ、別にフェミはポルノ嫌いって訳じゃないんだからねっ!」の確認 守如子『女はポルノを読む』

守如子『女はポルノを読む 女性の性欲とフェミニズム』青弓社 (2010/02)以下、本書を読んでの取り留めのない雑感です。■抑圧された女の快楽と、「主婦/娼婦」という階層■ 女性たちは、マスターベーション一つをとってみても、「彼のため」という言い訳を必…

パスカルを使った、ノルマリアンによる悪戯 【短評】

阿部良雄『若いヨーロッパ―パリ留学記』を読むと、こんなエピソードがあります。こんな感じです。 副校長でパスカル研究の大家プリジャン氏の住居の出口にバリケードを築いて、「われわれの不幸のほとんどすべては、自分の部屋にじっとしていられなかったこ…

古井由吉におけるフィクションの論理  古井由吉『漱石の漢詩を読む』

・古井由吉『漱石の漢詩を読む』岩波書店 (2008/12)■漢詩の多義性■ 幽という字は暗い、かすか、それから奥深いという意味があるので、そのいずれか一つだけを取りたくないために、吉川氏はユウと読ませたのだと思います。 (27頁) 「幽」についての著者の…

ブックガイドより註の方が重要? 柄谷行人ほか著『必読書150』(2)

■柄谷行人による田山花袋『蒲団』紹介 『蒲団』の内容自体はフィクションなのは周知だが、「明らかなのは、これが世間に衝撃を与えるという目的をもって書かれたということ」である。世間受けを狙う花袋。書いた内容なら作者は恥ずかしくなかった。だが、「…

『必読書150』を読む際の3つの注意点 柄谷行人ほか著『必読書150』(1)

・柄谷行人ほか著『必読書150』太田出版 (2002/04) 話題になった本ですので、これに関する紹介は不要と思います。 感想は一言、【この本で取り上げられた必読書って、誰が読むんだ?】となるはずです。これは、選んだ当人たちが言っているのですから間違いな…