歴史

「進化しちゃえば大丈夫だよ」から、「僕は新世界の神になる」になるまで。 -嘉戸一将『北一輝 国家と進化』を読む-

『北一輝 国家と進化』を読む。 面白いし、勉強になる所も多かった。*1 外部的な要因(社会的変化等)から彼の主著を読むのではなく、あくまで北の内在的な思想の地点に踏みとどまって読解している。 その結果、彼自身は、(よく言われていたような)思想的…

「警察がRAAを作り、RAAから”夜の女”が出現し、その取り締まりのために婦人警察官が必要とされた」 -池川玲子『ヌードと愛国』について-

池川玲子『ヌードと愛国』を読んだ。 実に面白い。 タイトルは、『ラーメンと愛国』を模したものだろうが、内容としては、『ヌードを通してみた、近現代日本における女性及び女性表象の扱い』みたいな感じである。 本書には、僅かに、出光真子(某出光の経営…

正坐嫌いは全員集合、読んで足と心をラクにしようぜ、といういい本。 -矢田部英正『日本人の坐り方』を読む-

矢田部英正『日本人の坐り方』を読んだ。 正坐嫌いな人は、絶対に読んでおくべき*1。マジで。 著者の主張には一部共感できないところはあるが、「坐る」ことの歴史について、学ぶべきところは多い。日本人の坐り方 (集英社新書)作者:矢田部 英正発売日: 2011…

演歌は「日本の心」というより、素晴らしき「雑種」なんだぜ、っていう話。 -輪島裕介『創られた「日本の心」神話』-

輪島裕介『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』を読んだ。 超面白い。 内容はタイトル通り、「演歌=日本の心」っていう図式は、「伝統の創造」じゃないの?、それって昔っからじゃなくて「最近」できたものじゃないの?、って内容で…

「同化」と「近代化」のはざま、あるいは、知里真志保について貴方がまだ知らないこと -藤本英夫『知里真志保の生涯』を読みながら-

知里真志保について書きたいと思う。 二つの「アイヌ」 知里『アイヌ民潭集』の後記(昭和10年2月18日)に次のようにある。アイヌ民譚集―えぞおばけ列伝・付 (岩波文庫 赤 81-1)作者: 知里真志保出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1981/07/16メディア: 文庫…

融通無碍、あるいは、相撲の歴史と「由緒」と「差別」の話 -新田一郎『相撲の歴史』を読む-

新田一郎『相撲の歴史』(文庫版)を読んだ。相撲の歴史 (講談社学術文庫)作者: 新田一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/07/12メディア: 文庫 クリック: 10回この商品を含むブログ (10件) を見る 相撲は大好きである。 あれはすぐに決着がつく、素晴らし…

「天皇にしても、ほかの権威にしても、国民にとっては与えられたもの」と大平正芳は書いた。 -福永文夫『大平正芳』再読-

福永文夫『大平正芳』を読んだ。 大平について、以前、阿片の件でブコメをしたので、久々に本書を読んだ。 amazonで評者さんの一人が引用しているように、「大平は極端を嫌い、矛盾する事象に楕円のバランスをとり、粘り強い対話を重視した。また政府の役割…

「兵士は天皇のために死んだ」という建前が消えた戦後 -小沢郁郎『つらい真実 虚構の特攻隊神話』再読-

小沢郁郎『つらい真実 虚構の特攻隊神話』を再読した。 これで何度目か。 すでに他のブログさんで取り上げられている( これとか、これ。あとはこれも )が、「特攻」を知る際、読んでおきたい本の一つだ。 とりあえず、書いておきたいことだけ。 大西瀧治郎…

山県有朋の処世から、陸軍が投げた大ブーメランまで -大江志乃夫『日本の参謀本部』を読む-

大江志乃夫『日本の参謀本部』を再読した。 もう古典になった気もするが、まだまだ読むべきところは多い。 ちなみに、Apemanさんも感想を書いている。 面白かったところだけ。 山県が(略)その地位を保持することができたのは、情報政治に負うところが大きい…

とりあえず、京の都は「日本的」ではないよね、みたいな話 -渡辺浩『日本政治思想史』について-

渡辺浩『日本政治思想史』を読んだ。 かなり面白い。 過去に著者が行ってきた講義が原型となっているためか、初心者にもわかりやすく(こっちは初心者ではないが)、江戸の政治思想(政治だけではないけど)が、よく理解できる良書。 江戸期の「思想」が現代人に…

満洲の棄民、あるいは、裏切られた「戦場の花嫁」について -東志津『「中国残留婦人」を知っていますか』を読んで-

東志津『「中国残留婦人」を知っていますか』を読む。「中国残留婦人」を知っていますか (岩波ジュニア新書)作者:東 志津発売日: 2011/08/20メディア: 新書 ジュニア新書と思って侮るなかれ。 良書である。 ほかにも読まれるべき個所をいくつも含んでいるの…

何で日本は入学試験が厳しいシステムになっているのか、というお話。 -天野郁夫『試験の社会史』を読んで-  

天野郁夫『試験の社会史』を読んだ。 正確には再読なのだが。 興味深かった所だけ。 まず、試験と競争の歴史について。 実は、競争と結びついた試験は中国の科挙に始まる(27頁)。 科挙の存在が、欧州の啓蒙思想家たちに注目された歴史的事実は、よく知ら…

下の「身内」を「殺害」して、上の者はおめおめ生きのびた。 -保阪正康『「特攻」と日本人』、大貫健一郎, 渡辺考『特攻隊振武寮』-

保阪正康『「特攻」と日本人』と、大貫健一郎, 渡辺考『特攻隊振武寮』を読んだ。 気になった所だけ。 まずは『「特攻」と日本人』。 著者の見解について、幾つか気になる点はあるのだが、それでも賛同できる部分は多かった。 昭和十九年の十月、台湾沖航空…

湛山と憲法と平和とワイシャツと私 -増田弘『石橋湛山』を読む-

増田弘『石橋湛山』を再び読む。 リーダブルだし、面白い。 気になった所だけ。 湛山は新兵として苦労を重ねている(17頁)。 入営時に60kgほどあった体重は48kg台まで減り、在営中ついに回復しなかった。 湛山は軍隊に在籍した一年間に、戦争への…

戦後になっても、靖国神社がついに己自身を克服できなかった件 -赤澤史朗『靖国神社』を再読する-

赤澤史朗『靖国神社』を再読する。 (たぶん)知られざる良書である。 いつもどおり、興味のあるところだけ取り上げていく。 「靖国神社の祭礼には、競馬やサーカスなどの娯楽が付きまとい、多くの観衆が集まった」というふうに、庶民にとって靖国神社が親し…

「謝罪」、責任をきちんと認めるということ -中尾知代『日本人はなぜ謝りつづけるのか』について-

中尾知代『日本人はなぜ謝りつづけるのか』を読む。 以前、日英和解の記事が話題になって、それで本書を再読した(二度目)。 タイトルはアレだが、いたってマトモな本。 こちらの書評が一番丁寧である。 気になったところだけ。 ある捕虜の未亡人について(…

戦後憲法を擁護するに至った左派 -戦後の政治の二つの軸について- 松尾匡『商人道ノスヽメ』を読んで

松尾匡『商人道ノスヽメ』を読む。 一応は、良作。 本書で解説される「商人道」は、山岸俊男の説を"参照"する形で書かれている。 山岸の説に関しては、ここと、ここの疑問点を紹介しておきたい。 個人的には素朴な疑問として、?その人の出身階層とか出身の地…

農村が「革新」的だった頃 -あと、自民党の「社民主義」の背景について- 雨宮昭一『占領と改革』を読んで

雨宮昭一『占領と改革』を読む。 本書の要点は、戦前戦後を貫く「協同主義」の存在。 この存在については、こちらの書評をお勧めしたい。 「協同主義」というのは、つまり「ソシアル」(俗にいう"リベサヨ"ではなく、欧州的な、増税と社会福祉を提唱し、「大…

内向きな「戦争責任」でやり過ごした戦後六〇余年の歳月 -波多野澄雄『国家と歴史』を読む-

波多野澄雄『国家と歴史』を読む。 この著者がどんな人物であるかを知っておく限りであれば、この本は、悪い本ではないと思う。 戦後においてもなお、昭和天皇が継続して在位したことは、国外において、「過去の軍事侵略について日本人が罪の意識を感じてい…

【小文】 「市民社会=市民団体」のなかに、「労働組合」は入りますか? -あるいは、東欧革命の解釈をめぐって-

植村邦彦『市民社会とは何か』という良本がある。 マトモな書評は他にもある(そうでないものもあったw)ので、詳細は、そっちを参照された方がいい。 今回は、その一部について。 第八章の中でこういうくだりがある。 曰く、 マイケル・ウォルツァーも、ユル…

健康優良児たちは、戦争へ行った -北澤一利『「健康」の日本史』を読む(後編)-

西欧の解剖図。 こういうのは、一般的にたくましく均整のとれた身体が描かれるもの。 これは、特定の人物を標本にしたものではなくて、人間を代表するモデルなのだという(137頁)。 というのは、解剖図における身体は、人の個人差等の要素を完全に取り除…

運動会と、学校という制度に関して -北澤一利『「健康」の日本史』を読む(前編)-

北澤一利『「健康」の日本史』を読む。 『時事小言』での福沢先生の発言。 この時代になると、福沢先生は、信頼できる人種として士族に注目する。 士族は優秀で国のためになるから、という理由で。 んで、それ以外の「百姓町人のやから」は「社会のために衣…

体罰が少なかった江戸期において、それでもなお・・・

■権力者の恣意 VS 民衆の恣意 ?■ 江戸時代の法体系こそ「依らしむべし、知らしむべからず」の方針がとられ、刑法はその裏をかく行為が警戒され、この典型で非公開であった (某書より引用) ■親よりも君主優先、な日本国 orz■ 親に対する孝(行)と君に対する…

戦前における高齢者虐殺事件の一例

■満州国の新京で逮捕、ケースもありました■ 満州や朝鮮に簡単に逃走する少年がいるのも戦前の特徴で、ほんとにひとつの国でした。 (某書より引用)■戦前の高齢者虐殺事件■ 七七歳の老人である斎藤内大臣にはなんと四七発も撃ち込んでいます。それもすでに何発…

「大和撫子」という語に関する歴史と、「もう<ピンク・ジャパン>でいいじゃん」、というどうでもいい話

すんごくどうでもいい話。 あるサイトを見ていたらこんなのがあった。 万葉集の時代には『なでしこ』の花と「かわいらしい子」をかけてよく詠まれたのですが、多く女性のことを歌ったようです。そこから『撫子』といえば女性を想像したのですね。『なでしこ…

愛国主義と進化論の関係 IN CHINA -あと、俗にいう「中華思想」について- 吉澤誠一郎『愛国主義の創成』を読む

吉澤誠一郎『愛国主義の創成』を読む。 ハクスリー『進化と倫理』は、進化論を背景に人間の倫理を考えた書物。 しかし、実は、その述べるところはマトモ。 曰く、例えば、ガーデニングをするとき、そこは周囲とは異なる環境の状態になる。 つまり、自然の過…

明治期、実は離婚率が現代よりも高かった件について -ついでに、見合い写真による結婚について- 湯沢雍彦『明治の結婚 明治の離婚』

湯沢雍彦『明治の結婚 明治の離婚』を読む。 手堅くて、いい本。 明治時代って、半ば過ぎまで、実は離婚がとっても多い社会だった。 離婚率は、昭和40年ごろに比べて、3倍近く、最近と比較しても5割近く高い(7頁)。 なんで?という疑問に本書は答えよ…

「これは"太平洋戦争"ですか」「はい、"アジア・太平洋戦争"です」 -旧日本軍が東南アジアにいた頃-

倉沢愛子『「大東亜」戦争を知っていますか』を読む。 所々、反論したい所も出てくるけど、主題部分については勉強になる箇所が多い。 ちなみに、著者は、太平洋に面してなくても東南アジアも戦場・占領地だったんだから、カッコつきで、「「大東亜」戦争」…

社会民主主義、あるいは「社会」と「民主主義」の相克と和解について -信頼の構築-

進藤榮一『敗戦の逆説』を、またしても。 著者は、日本戦後の自民党と(戦前から持続する)中央集権的官僚制による支配には批判的。 一方で、戦後占領期の"財閥解体"と"持株会社の禁止"には肯定的で、それによって達成された"中小企業の育成・強化"は擁護して…

戦前からあった中ソの溝と、"有条件降伏"の愚かさ -第二次大戦の挿話-

進藤榮一『敗戦の逆説』を再び読む。 米国側の守旧派と変革派の抗争は、日本に対してだけでなく、中国にもあった。 そこで、興味深い点がある。 中ソという共産主義国に対する見方である。 前者は、中ソを一枚岩と見たのに対して、後者は各々が一枚岩などで…