歴史

"知日派"の実像と、ニューディーラーたちの抗争 -対日占領政策の政策的抗争をめぐって-

進藤榮一『敗戦の逆説』を読む。 憲法押付け論(例えば、江藤淳)でもなく、かといって、"米国知日派と日本の知米(英)派との融和的共同作業"と言った主張(例えば、五百旗頭)とも違う"占領論"を、著者は説いている。 前者は、米国側が対日懲罰的なハードピ…

検閲する側の苦悩と、検閲される側のお気楽 -占領期メディアの"逆説"をめぐって- 有山輝雄『占領期メディア史研究』(3)

続きを書くよう要請があったので、書いてみました。短いですが。 ■宣伝記事「太平洋戦争史」が、弁護したもの■ 江藤の「太平洋戦争史」(全国の新聞紙上に連載された、GHQによる"宣伝記事"のこと。詳細はググってね)に対する見方に対しても、著者は"異論…

実は微妙にゆるかった言語空間 -エガシラさんと占領期初期の検閲状況- 有山輝雄『占領期メディア史研究』(2)

震災より10日以上を過ぎてなお、大地震が与えた傷はまだ癒えておりません。そんな中、江頭(えがしら)さんが、物資不足の福島県いわき市に自ら運転して支援物資を届ける、という偉業を成しました。 その偉業に経緯を評し、今回は別の江頭(えがしら)さんについ…

昭和二十年お前が言うな大賞 「新聞社様各社」  -有山輝雄『占領期メディア史研究 自由と統制・1945年』(1)-

江藤淳が亡くなって大分経ちますが、この前とある人と話してたら、『閉された言語空間』の話題になりました。内容は詳しく覚えてませんが、とにかくGHQのせいだ云々、とかいう話でした。 『閉された言語空間』以降も、ちゃんと研究は進んでいて、少なくとも…

手紙はいろいろ知っている  袖井林二郎『拝啓マッカーサー元帥様 占領下の日本人の手紙』

なぜ、日本は先の大戦で、誰も駐留米軍に対してレジスタンス活動などを行わなかったのか。 軍のトップに立っていた天皇がそれを求めない以上、そんなことが出来るわけがないし、そもそも他国ないし他勢力からの援護が期待できない状態でのレジスタンス運動な…

暴力装置が抱いた欲望 -武装組織が台頭した諸事情- 【続・ワイマール共和国内部の武装組織について】

前記事より続き。■なんで武装組織ばっかだったんだよ!■ ここで一点、疑問に思われる方が、おられるかもしれません。なぜ、ワイマール共和国は、武装勢力だらけになったか。 詳細は分かりませんが、ドイツ義勇軍(フライコール)の存在が大きかっただろうこ…

暴力装置の機能不全 -ワイマール共和国内部の武装組織について- 【ブクマを振り返って】

著者はこの「たたかわなかった」ワイマールという話自体が神話であったのではないかと説く。ワイマール共和国はけっして自らを攻撃する勢力や運動に寛大であったわけではない。むしろ刑法の内乱罪や「共和国擁護法」を活用し、「共和国の敵」に対して言論段…

「無条件降伏」と「本土決戦」 -1945年、いかにして日本は分割占領されず、沖縄が「国体」の犠牲にされたのか-

はてブの方で、m-matsuoka氏より素敵なコメントをいただいたので、これをいじり倒してみたいと思います。以下、適当にWikipedia等を引用しつつ、適当に弄繰り回してみましょう。( m-matsuoka氏の素敵な足跡については、「id:m-matsuoka氏に答える」(『小熊…

同化ユダヤ人は辛いよ/「キリスト教世界」なんて近代の産物だよ 工藤庸子『砂漠論』(1)

工藤庸子『砂漠論 ヨーロッパ文明の彼方へ』左右社(2008/3) 本書は、『砂漠論』というタイトルで、実際に表題の一編が、冒頭に掲げられています。しかし、全編を見通すと、ヨーロッパ文明の「彼方」の事よりは、「此方」の方が主題として扱われています。 「…

佐藤優の「明石作戦」擁護 に対する疑問  /稲葉千晴『明石工作』について

これが、ガセであることを祈りましょう。とあるところからのコピペ。 藤原: 明石の工作は実は効果がなかったとしている本が日本でも出ましたよね。あれは信頼できるんですか。 佐藤: 私はあまり信頼していません。明石の行動記録についてはロシアですでに…

「唯一の被爆国」というナショナリズムについて 【短評】

前回、高田純『核爆発災害』を紹介しました。ですので今回も、「被爆」という問題について、書きたいと思います。 「日本は唯一の被爆国」との表現に対して、次のような反論があります(注1)。 「世界で初めて原爆の犠牲になったのは、史上初の原爆実験に…

CIAの現実とアメリカの外国語音痴 落合浩太郎『CIA 失敗の研究』(2)

本著は、上記のような問題を生んだのは、CIAだけではないといいます。議会や「諜産複合体」のロビー活動、共和・民主の両政党、政府、マスコミ、罪無きものはいない状態だ、と述べられます。諜報活動へ比較的消極的だった民主党は、特にクリントン政権が…

官僚機構としてのCIA 落合浩太郎『CIA 失敗の研究』(1)

落合浩太郎『CIA 失敗の研究』文藝春秋 (2005/6/20) 冷戦後、ソビエト連邦という仮想的をなくしてもなお、体質を変えられなかった米国諜報機関。その硬直した体質が浮かび上がる本です。 もちろん、「この世界の厳しさは、何件阻止したとしても、一件阻止に…

日露戦争とセキュリティ・ジレンマ 横手慎二『日露戦争史』

横手慎二『日露戦争史 20世紀最初の大国間戦争』 中央公論新社 (2005/4/25) 本書についても、すでに、きちんとまとまっている書評があります(例えば、『リアル読書ブログ』様)■相互の誤解■ 本書のテーマは、日露戦争と、「日本の対露観とロシアの対日観と…