社会的問題

出版されて10年になるが、まだ古びていないことは喜ばしいことなのか どうか -ななころびやおき『ブエノス・ディアス、ニッポン』-

『ブエノス・ディアス、ニッポン 外国人が生きる「もうひとつの日本」』を読んだ。*1 出版されて10年は経つが、いまだに古びていない。 それは喜ばしいことなのか(反語)。 野村進が書評*2でいうように、「激変する在日外国人社会の現状を知るためには必読…

共感だけじゃダメなのよ、あるいは、「聴く」とは何か、というお話。 -六車由美『驚きの介護民俗学』、向谷地生良『技法以前』-

六車由美『驚きの介護民俗学』を読んだ。 確かに驚く。 ふつう、介護と民俗学は結び付かないから。 本書は、サントリー学芸賞を受賞するほどの学者さんが、静岡の老人ホーム(のデイサービスセンター)で介護職員として勤めるようになり、その現場で高齢者た…

「きれいな被害者」を求める社会は、幼稚だと思う。 -宮地尚子『トラウマ』雑感-

宮地尚子『トラウマ』(岩波新書)を読んだ。 トラウマとは何か、そしてトラウマに関する諸々を学べる良書。 初心者にもとっつきやすい。 興味を持ったところだけ書いていく。 裁判などで「事件の次の日も平気で仕事に行ったのは不自然」ということで犯罪報…

かつて、学校が生徒に、電話のかけ方から貯金の仕方まで教えていた時代があった。  -広田照幸『教育論議の作法』を読んで-

広田照幸『教育論議の作法』を読んだ。 面白いし、これまでの広田先生の著作のおさらいにもなる。 特に興味深かったところだけ、以下に取り上げる。 1947年に教育基本法案が国会で審議されていた時、貴族院議員の澤田牛麿が質問している(38頁)。 こ…

「格差」を是正しなければならない時。 -「不法入国」から「金融危機」まで- ミラノヴィッチ『不平等について』を読んで

ミラノヴィッチ『不平等について』を読了。 あのトマス・ポッゲが推薦していたので、読んだ。 曰く、「楽しみ満載のこの本で、経済的不平等という深刻な主題について学んでみよう!」 特に面白かったところだけ。 ソ連などの社会主義国家について(61、62…

『これからの「国家」の話をしよう』(みたいなタイトルには、ならなかったw) -杉田敦(編)『連続討論 「国家」は、いま』を読む-

杉田敦(編)『連続討論 「国家」は、いま――福祉・市場・教育・暴力をめぐって』を読む。 本書の要点は、このブログが書いておられるので省略する(http://anglo.exblog.jp/12598554/)。 巻末で杉田先生が述べている、国家は完全に肯定も、かといって完全に否…

住居が「権利」ではなく、経済の「燃料」にされてきた戦後日本の歳月 -平山洋介『東京の果てに』を読む-

平山洋介『東京の果てに』を読む。 良書。 内容については、こちらの書評をお勧めしたい。 なかでも、"福祉としての住宅"という問題に関して興味深い箇所があるので、これについて書いておく。 (著者は、のちに『住宅政策のどこが問題か』という本を書いて…

「新自由主義的医療改革の本質的ジレンマ」 -医療と経済の常識- 二木立『医療改革』を読む

二木立『医療改革』を読む。 小泉政権における、医療に対する新自由主義的改革がなぜ挫折したのか。 そこには根底的な理由がある。 新自由主義的医療改革を行うと、企業の市場は拡大する一方で、医療費(総医療費と公的医療費の両方)も拡大し、これが医療費…

広電労組に学ぶ、ストライキの正しい方法と今後の労組のあり方 -河西宏祐『路面電車を守った労働組合』を読む

河西宏祐『路面電車を守った労働組合 私鉄広電支部・小原保行と労働者群像』は、全労組の組合員必読の内容といってもよい。 例えば効果的なストの打ち方については、「ストライキは最も効果的な時期をねらってやる。たとえ一時間のストであっても数倍の効果…

天皇のリコール権まで入った、憲法草案

■アリスさん「でっかい東北です。」■ 諸外国と比較すると、東北地方の総面積はほぼラトビアやリトアニアの面積に匹敵し、オランダやデンマーク、スイスやボスニア・ヘルツェゴビナよりも広いのです。 (某書より引用)■見た目と違って。■ (引用者注: イザベラ…

「じゃましマン」が凄過ぎる、という結論しかない -松本哉、二木信,編『素人の乱』を読んで-

松本哉、二木信,編『素人の乱』を読む。 松本の証言によると、PSE法の時は、「国会議員に訴えたりマスコミとやりとりしたりが多かった」らしく、そっち方で忙しかったそうな(111頁)。 マスコミへの電話やファックス、政党や国会議員へのコンタクトなどで…

「あなたがいなくなると悲しい」、あるいは、仏教と自殺の関係について少し -磯村健太郎『ルポ仏教、貧困・自殺に挑む』を読んで-

磯村健太郎『ルポ仏教、貧困・自殺に挑む』を読む。 釜ヶ崎で日雇い労働者や路上生活者の支援をしている大谷派の僧侶・川浪さんは次のように言う(65頁)。 路上生活していた時に、「はじめて寝た日、不安で不安でたまらなかった」、と。 ヒールの音が近づ…

"都市型狩猟採集生活"と資本主義のカンケイ -ホームレスであることの自由と、社会福祉について-

坂口恭平『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』を読む。 都市では、勤め人にならずとも、工夫すれば生きられることを証明している。 スーパーで、「無報酬でゴミ捨て場の掃除をやるので、その代わりあまった食材ください」と直談判する方法が紹介されている…

公費投入が、実は"ニッポンの大学"を変える可能性がある件 -矢野眞和『「習慣病」になったニッポンの大学』を読む 後編-

矢野眞和『「習慣病」になったニッポンの大学』を読む。続き。 著者は、世間のお偉いさんの(上記のような)「無理に大学に進学する必要はない」という主張を批判する。だって、高校や専門学校の就職は大学よりもっと厳しいから(213頁)。大学進学を目指…

いかにして「どうしてこうなった日本の大学 orz」となったか? -矢野眞和『「習慣病」になったニッポンの大学』を読む 前編-

矢野眞和『「習慣病」になったニッポンの大学』を読む。「習慣病」になったニッポンの大学―18歳主義・卒業主義・親負担主義からの解放 (どう考える?ニッポンの教育問題)作者: 矢野眞和出版社/メーカー: 日本図書センター発売日: 2011/05/24メディア: 単行本…

「国際人」と「独特なナショナリズム」 /とある保守派への平凡な反論 【短評】

ヒッチハイクをやり、皿洗いや掃除をやりながら、無国籍人として生きたから、一人前に生きた、国際人として生きたといえるのか。埒外者として、乞食として生きのびるだけなら、アメリカであろうがイギリスであろうが、いささかの厚顔ささえあれば、なんの人…

外国人犯罪に対する正しい態度 番外編(4)草野厚『政権交代の法則』

■80年代後半における外国人犯罪とグローバル化の関係(の続き)■ 87年から93年にかけての来日外国人の一般刑法犯の検挙人員の方が増加傾向にあり、それ以降一般刑法犯の検挙人員のなかで来日外国人が2%程度の割合を占めることとなります。しかし、8…

外国人犯罪とグローバル化 番外編(3)草野厚『政権交代の法則』

■来日外国人犯罪増加・凶暴化論へ反論してみよう■ 来日外国人犯罪増加・凶暴化論への反論、早速やってみましょう。凶悪犯(殺人・強盗・強姦等)における来日外国人の割合は2004年で5.6%とされていますが、一般刑法犯の2.3%に比べると、2倍以上です。 2…

外国人犯罪「凶悪化」はほんとうか 番外編(2)草野厚『政権交代の法則』

■「凶悪化」の実態■ 「特に凶悪犯罪等が犯罪白書で問題視されている」という風にWikipediaでは言われています。実際どうなんでしょう。 過去データですが、警察庁統計の中の「来日外国人犯罪の検挙状況(平成16年)」によると、平成12年から16年まで、「…

「来日外国人の犯罪」を問題にする前に 番外編(1)草野厚『政権交代の法則』

■来日外国人の「犯罪」■ 「来日外国人による犯罪も、過去一〇年間で二倍になったことが犯罪白書(〇七年版)からも読み取れる。」(207頁)と述べています。なんか、アバウトな言い方です。本当でしょうか。軽く調べて見ましょう。 まず確認しないといけ…

保守(ホシュ)主義へのイロニカルな礼賛 斎藤美奈子『それってどうなの主義』(3)

■教育基本法について(の続き)■ なるほど。実に素晴らしい意見だと思います。まず、「左翼教師」に、生徒に「平素は国旗・国歌を無視する「心」を教え続ける」方法を暗に教えてやり、第十条の「教育は,不当な支配に服することなく・・・」と言う条文がまだ…

自然離れと教育基本法 斎藤美奈子『それってどうなの主義』(2)

■自然離れについて■ 通常、子供の自然離れの原因としては、子供の周りの自然の少なさが、よく指摘されていました。しかし、著者は、岡田朝雄氏の意見を引いて(192頁)、次のように言います。「1970年代以降、列島改造論によって開発が進むとともに、…

「あいつの待遇落とせ」ではなく、「俺たちの待遇上げろ」 斎藤美奈子『それってどうなの主義』(1)

斎藤美奈子『それってどうなの主義』白水社 (2007/02)本書の内容については、『一本釣り BOOK&CINEMA』様も書評されています。 本書は、文の集成ですので、その本から何を取り上げたかで、その人の興味なども分るかと思います。ちなみに、先の評者は、次の…