志賀のフランス語公用語化論 安藤健二『封印されたミッキーマウス』(1)

安藤健二『封印されたミッキーマウス 美少女ゲームから核兵器まで抹殺された12のエピソード』洋泉社 (2008/05)

 この本についてはすでに、優れた書評が存在しているので(たとえば、『積ん読パラダイス』様など)、ですので、今回はあまり言及されない内容について書き記そうかと思います。
 封印された12のエピソードを取材したルポからなるこの本ですが、ウェブ上で取り上げられるのは、「捏造された日本人差別 タイタニック生還者が美談になるまで」の章と、「ミッキーマウスのタブー 大津市プール事件と著作権問題」の章ばかりです。
 ほかの章は、短かったり、著者の既刊の本と内容が重複しているために、言及されないのだと思います。今回は、この本の中でも、「封印」というほど知られていないわけではない志賀直哉のフランス語公用語論を扱った章を取り上げたいと思います。これは、本の最後の章にあたる「「フランス語を日本の公用語にせよ!」 志賀直哉の爆弾発言を追って」で取り上げられています。
 Wikipediaの志賀の項目では、この話題が出てきています。

 日本語を廃止してフランス語を公用語にすべしと説いたこともしばしば批判されている。批判者の代表として丸谷才一を挙げることができる。これに対して蓮實重彦は『反=日本語論』や『表層批評宣言』などの中で志賀を擁護した。

 では、本書ではどのように、志賀のフランス語公用語化論は取り上げられたでしょうか。
 著者は、志賀を扱ったこの章で、実際の志賀の問題の文章「国語問題」を原文で読み、言語学者の鈴木孝夫や「評論家の丸谷才一」の志賀への批判を紹介し、さらに、一貫して志賀がフランス語公用語化論を展開していた事実を突き止め、「国語問題」発表時の志賀の他分野への論旨のむちゃくちゃなエッセイを紹介しながら、最終的に「なぜ志賀がこんなことを言ったのか」という問いについて解答を出さないまま文章を終わらせます。そこから浮かび上がるのは、志賀の無茶で無責任な発言振りばかりです。

(続く)