さよなら「擬似政権交代」、あるいは自民党「派閥」の歴史 草野厚『政権交代の法則』(1)

草野厚政権交代の法則  派閥の正体とその変遷』角川グループパブリッシング (2008/8/10)

■骨子のみの要約■
 本書を要約すると、こんな感じでしょうか。
 著者は「ねじれ国会」出現の後の、従来の自民党による「擬似政権交代」の限界を指摘します。そして、いまこそ「政権交代」だ、と。
 これまでの「擬似政権交代」は、自民党諸派閥が作り出してきました。著者は、55年体制から福田政権までの自民党の派閥の衰亡史を概観します。そして、小沢一郎の辣腕と失脚・退却の軌跡を描くことで、自民党の派閥史を鮮明に照らし出しています。与党に対する民主党の特質(派閥的実情、その弱点としての理想主義など)を説明し、最後に、両党のマニフェストの国家ビジョンの不透明さを指摘して、政界再編に対する著者の提言を行うわけです。
 以上、こんな感じでしょう。しかし、これでは味気ないので、もう少し詳しく見ていきます。

■「擬似政権交代」の黄昏■
 政権交代が騒がれる昨今、これに備えるために政権与党・自民党の派閥の歴史を知ろう、という内容です。まだ福田政権のころの著作ですが、この本を読む意義は十分にあります。何故派閥なのか。
 自民党の派閥による政治は、これまで「擬似政権交代」によってなされてきました。自民党内の、ある派閥が失敗しても、別の派閥が代わりとなって擬似政権交代する。これで自民党は力を回復してきたわけです。有名な3バン(カバン(財力)、カンバン(地元での名声)、ジバン(地元の支持票)のみつ)によって、選挙に優位に立つ体制を整え、野党を政権に上らせない長期政権が築かれたわけです。中選挙区制は、この状態を支えました。
 一方で、派閥は、総裁予備軍を育成し、政治家そのものの教育機関としても機能していました。族議員も「派閥が育てたケースが多い」(55頁)といいます。
 ところが、この自民党の「擬似政権交代」にも限界が訪れました。1993年の自民党下野に始まります。この93年のトラウマが、自民党の「その後のなりふり構わない政権維持の原動力となっている」(115頁)。
 さらに翌年の小選挙区制への変更によって、徐々に「擬似政権交代」システムにほころびが見えてきます。小選挙区制度の登場で、政策中心の政治の必要性が理解されるようになったのです(43頁)。
 そして参院選での自民党大敗による「ねじれ国会」の出現が、「擬似政権交代」から文字通りの「政権交代」へと変遷する可能性を生んだわけです。
 対する民主党の特質も書いています。小沢一郎は、得意とする【ドブ板選挙】を行って民主党を引っ張っていきました。彼の手腕による躍進の一方、民主党自民党的な派閥化の可能性を、著者は指摘しています。
 民主党の主な収入は、政党交付金に依存(全体の80%)しており、ゆえに派閥ができにくい環境でした(157頁)。つまり、政党が財布を握っていたので、派閥政治が起こりにくかったわけです。しかし、政権交代を期に、これが変わる可能性がある、ということです(この詳細は本書をお読みください)。
 また、もともと民主党には、野党が長い分、ある種の理想主義的な政治風土がありました。著者は、小沢のやり方に反発する、前原元代表のような民主党の若手勢力にも言及しています(前原氏について著者曰く、【正論だが駆け引きがない】とのこと)。

(続く)