「来日外国人の犯罪」を問題にする前に 番外編(1)草野厚『政権交代の法則』

■来日外国人の「犯罪」■
  「来日外国人による犯罪も、過去一〇年間で二倍になったことが犯罪白書(〇七年版)からも読み取れる。」(207頁)と述べています。なんか、アバウトな言い方です。本当でしょうか。軽く調べて見ましょう。
 まず確認しないといけないのは、「来日外国人」という概念は、とても「扱いにくい概念」であり、これを「用いた不完全な統計は、情報操作の手段となりやすい」ものだということです(「来日外国人 | ジローの用語解説」『みしゅっくonline』様より)。気をつけないといけません。

■むろん、日本人の犯罪の方が多いです■
 wikipediaの「外国人犯罪」の項目では、「昭和から緩やかに増加していた来日外国人犯罪は平成10年から平成16年まで急増」したといっています。しかし、「朝日新聞と「外国人犯罪」報道。オバマとブッシュと茶化しと差別」(『多文化・多民族・多国籍社会で「人として」』様)をみると、どうもそうとはいえないようです。
 全体では、日本人の刑法犯検挙人員の方が、「来日外国人」の刑法犯検挙人員を数的に圧倒しているからです。まず先に、そっちを議論する方が優先というのが前提です。お忘れなく。
 そして、「コムスタカ─外国人と共に生きる会」の中島真一郎氏の発言、「一般的に犯罪問題でデータとして使われる刑法犯検挙人員で、『来日外国人』は2%程度、『不法滞在者』は0.4%程度しか占めておらず、その構成比は小さく、最近10年間で見るとほぼ横ばいか減少傾向にありますから、日本の治安悪化の要因とはなっていません」 というのを読みましょう(「根拠に乏しい自民党選挙公約−治安対策−」『JanJanニュース』様)。
 グラフを見れば、圧倒的です。これに関連して

外国人犯罪増加」という言い方がなされることがあります。でも「日本人犯罪増加」という言い方はされません

という言葉は至言です(「外国人犯罪は作られる!」『外国人冤罪事件から日本が見える』)。要するに、先に問題として取り上げる順序を考えましょうね、ということです。

■定義自体に限界アリ■
 犯罪における定義についても、幾つか注意も必要です。
 例えば、通常、被害者のいない犯罪が大半を占める「特別法犯」は、認知件数が不明のため、「特別法犯」と「刑法犯」を合計する「総検挙件数・総検挙人員」は使いません。なのに、「来日外国人」犯罪統計では、「総検挙件数・総検挙人員」が使われています。」(中島真一郎「「外国人犯罪」の宣伝と報道」『コムスタカ』様)。
 さらに、「検挙件数」にも問題があります。「来日外国人刑法犯」の「検挙件数」は、「日本全体の刑法犯と比べて、異常とおもえるほど余罪のカウントが多くなされて」おり、日本人に比べ余罪(ここでは、「自販機荒し」や「車上狙い」などの非侵入盗)が多く計上されているため、客観的な指標としてはつかえません前掲中村論文を参照)。「外国人の入国者数よりも検挙数の方が上昇している」云々と書いている人もいるようです。「検挙人員」があんまり変わっていないのを見忘れたようですね。計上された余罪が多いから、件数が多いのです。
 また、「来日外国人刑法犯検挙人員」も、警察の取り締まり方針に左右されやすいものです。「万引き」や占有離脱物横領(主に、放置自転車の無断使用)の摘発強化を考えるべきでしょう(少年犯罪の「増加」の原因になったやつです。前掲中村論文を参照)。ゆえに、

日本社会における「来日外国人」や「不法滞在者」による犯罪の増減を示す指標として、「日本全体の刑法犯検挙人員」に占める「来日外国人」あるいは「不法滞在者」刑法犯検挙人員の構成比の10年間、あるいは15年間など一定期間での推移で、その動向を一般的に把握する以上のことはできないと考えています。

とおっしゃるわけです(中島真一郎「「治安悪化」のスケープゴートとされる外国人」『コムスタカ』)。

(続く)


(注1) 「朝鮮籍韓国籍の受刑者は日本国籍の犯罪者の6倍ということだ。」とかいっている某サイトがあることを、以前紹介しました。その原因について、不法入国者(「特別法犯」者)が入っているからだ、とかつて述べましたが、実際は、これが原因ではありません(こちらの勘違いです)。
 要するに、使うデータ事態に問題があります。実際は、日本に居住している以外の外国人の数を考慮するべきでしょう。直接足さなくてもいいですが、滞在時間の分を加算するなどの方法は考慮に値するはずです。
 そもそも、労働人口の割合が比較的多くなるはずの外国人居住者数の事情を無視しています。つまり、彼らが日本に来る際、独身者の割合が比較的多く(ゆえに労働可能人口はの割合は高くなる)、結婚した場合も日本人の配偶者である可能性が少なからずあるため、子供が日本国籍を取る可能性が一定度残るのです(ゆえに、労働可能人口の割合は高くなる)。「善良」な外国人の場合、帰化する可能性なども考慮されるべきです。
 労働可能人口の割合が高いということは、自ずと犯罪を犯す可能性の比較的高い年齢層の割合が、大きくなる、と理解すべきでしょう。
 せめて、後の拙稿で見るように、その点を考慮した統計を参考とすべきです。

2010/1/10 一部内容修正済