紙のリサイクルは熱帯林を救わない? 宮内泰介『自分で調べる技術 市民のための調査入門』

・宮内泰介『自分で調べる技術 市民のための調査入門』岩波書店 (2004/07)

 もちろん、この本は、調査のための手引きとして使えるものですので、調査する際に注意すべきことを知りたい方は、類書を含めてこの本を読んでいただけたらと思います。本書については、宮内泰介「[私家版]市民のための情報収集法」(『宮内泰介のページ』様) もご覧ください。
 ここでは、この本において気になった所、興味深かった所を、数点挙げていこうかと思います。

■マスコミに期待しすぎ■

マスコミはもちろん大いに利用すべきですが、それに過剰な期待をするのはやめたほうがいいと思います。 (12頁)

 もちろん、マスコミにはその影響力にともなう責任があって、その「権力」に対しては監視が重要なのは無論のことです。しかしながら、某新聞や、某公共放送機関にたいするバッシングには、なんだかルサンチマンのようなものを感じます。このバッシングこそ、このマスコミに対する「過剰な期待」というべきでしょう。バッシングとは、その実、期待の、もっというなら依存の表れなのです。
 なんかよく分りませんが、高山正之『日本人が勇気と自信を持つ本 朝日新聞の報道を正せば明るくなる』という本もあるそうです。たかだが一新聞の報道が正されれば「明るくなる」という国の国民性はじつに単純だなあ、という感想に尽きます。
 この期待、はっきりいえば「依存」の関係は、ちょうど、「マスゴミ」と大手メディアをバッシングするネット上の言論にも、当てはまるのかもしれません。

■「特派員」の活動■
 パプアニューギニアの熱帯林伐採について書かれた記事をよく見ると、シドニーの特派員がシドニーで書いた記事だとわかる、などというのはよくあることです。現地になんか行っていないのです。」(61頁)とのこと。
 ためしに朝日新聞のウェブ版でも見てみましょう(以下、朝日新聞社のニュースサイトより引用)。「花ではなく靴を投げつけ、適切だった イラク記者釈放」という記事の「【カイロ=田井中雅人】」は、「イラク人記者ムンタゼル・ザイディ氏が15日、バグダッドの刑務所から釈放された。」という記事ですので、現地には行っていないようです。
 一方、「アフガン空爆被害者 外国軍は無実の市民を殺している」という記事は、「【カブール=四倉幹木】」となっており、内容の書き方を見る限り、現地へ行ったのだろうと思います(たぶん)。

■質問者の欲しい回答を、汲み取って言ってしまう回答者■
 あることについて、「たいへん複雑な感情を持っているのに」、聞きに来た人の質問のペースにに乗せられたり、聞きに来た人の意図を汲んで、相手の聞きたそうな話ばかりをしてしまったりする(116頁)、ということについて、著者は述べています。インタビューをする際の注意点です。
 前者はともかく後者の場合、意識的でない分、単なる誘導尋問ではありません。しかし、相手は聞き手の思惑を読み取って話してしまうことがある。裏を返せば、語りというものが、本源的に相互作用でできていることの証拠でもあるわけです。
 「インタビュー」ではないのですが、上記に関する事例として、次のような事例もあります。

それぞれ文化的伝統の異なる部族の出身者で構成されており、同じ「集落」のもの同士でも互いに言葉を通じさせることができなかったという。それにもかかわらず、彼らは単一の「未開人」として、本当な自分たちに馴染みのない儀礼やふるまいを観客の前で演じることを強いられたのである。展示された人々は、最初の一ヵ月が過ぎたころには、博覧会の観客たちが自分たちにどのようなふるまいを望んでいるかを察知し、それにあわせた「演技」を身につけていったようである。こうしてヨーロッパ人の側から見るなら、その植民地主義的な視線に適合するような「人種」の「劣等生」が、眼前の民族学的「実物展示」により「発見」されていくこととなった。
 (吉見俊哉『博覧会の政治学』 「■[文献紹介]『博覧会の政治学』(追記あり)」『Apes! Not Monkeys! はてな別館』様より孫引)

これは、「展示」された異なる出身の部族者たちが、「博覧会の観客たち」の望みを汲み取って、彼らのして欲しい「演技」をしてしまうことの実例です。本著の意図とは外れますが、覚えておくべき実例ですので、引用いたしました。

■紙のリサイクルは熱帯林を救わない?■
 熱帯林からの木材輸入の多くはベニヤ板としての利用であり、紙になるのは本当にわずか、とのこと(4頁)。
 本当でしょうか?「木材需要・供給」(『フェアウッド・パートナーズ』様)によると、2004年時点での日本の木材供給について、熱帯林のあるインドネシアやマレーシアから供給される木材の多くは、大半が合板用です。
 2006年の合板状況について、「日本は、熱帯材合板の9割をインドネシアとマレーシアから輸入しており、マレーシアは204万m3、インドネシアは173万m3」であり、「日本がインドネシアから輸入している主な木材製品は合板」とのことです(「熱帯材合板と日本」(『ecoffin cafe』様))。インドネシアとマレーシアの二国以外の熱帯林はどうか不明ですが、二国については著者の主張は正しいといえるようです。
 ゆえに、紙をリサイクルしても、二つの国の熱帯林をあんまり救うことにならないのは、おそらく事実です。

(了)

2009/10/02 一部修正済