金利利上げで得をするのは金持ちだけ 岩田規久男『日本銀行は信用できるか』(3)

■「最大の雇用の達成」も、日銀の目標にせよ■

 FRBの金融政策の目的は、連邦準備法によって、最大の雇用、物価の安定および長期金利の安定の促進であると規定されている。同法では、物価の安定は長期金利の安定とともに、最大持続可能な成長と雇用を達成するための条件であると考えられている。 (155頁)

 FRBでは、物価安定は「最大持続可能な成長と雇用最大持続可能な成長と雇用を達成するための条件」でもあると考えている、と。「インフレターゲット - Wikipedia」では、「アメリカや日本では、インフレ数値目標を具体的に設定する金融政策は採用せず、「物価の安定」を中央銀行の設置目的とし「実質的に」インフレ率を参照しながら行われている[3]」とありますが、実際には、アメリカでは、「最大の雇用」までも視野に入れています。
 「岩田規久男「日本銀行は信用できるか」」(『フィリピンから見た日本』様)は、日銀の目的に、「アメリカのFRBが課せられた「最大の雇用の確保」という項目がない」ことを指摘し、「雇用の確保を義務付けられていない日銀からすれば、失業率が上昇してでも、インフレを抑制することの方が重要だとする考えがあるのではないだろうか?」と、推論されています。
 日本の場合、過去のデータから、デフレの進行によって失業率が増大するという相関性(因果性かどうかは置いときましょう)があるのに、日銀はこれを事実上無視しています。それは我々の仕事ではない、という理由で失業率のことは脇においてしまい、インフレ抑制に御執心の状態が続いているわけです。
 ここでも、法制度による政策の保障が必要のようです。前回は、「首を賭ける」という制度的保障について書きました。これに続き、日本銀行の金融政策の目的に、「最大の雇用」をも、法的に規定してしまいましょう。失業率の悪化も、「日銀流理論」(責任を問われると、日銀は無力です、と逃げる都合主義理論)でごまかしてしまう日銀に対して、法的に縛りを賭けてしまいましょう。
 もちろん、【失業率の改善=雇用環境の改善】となるかといえばそうではありませんが、最低限日銀ができることとして、この目的を法的に追加するのは悪くない選択のはずです。

■これが、インタゲ政策の前提■

 政府は新日銀法を改正して、「政府目標設定の権限」を日銀から取り戻し、金融政策の目的としてインフレ目標を設定し、日銀にその目標達成の義務を課すと同時に、日銀の金融政策を監視・評価する第三者機関を創設すべきである。 (207頁)

 著者の提言です。特に付け加えるべき事もないでしょう。
 「目標設定の権限」は、まず行政が持つべきです(まあ、行政がきちんとやってくれるかどうかは別問題ですが)。政府がインフレ目標を設定して、その手段について銀行が決定する形です。そして、「日銀流理論」という【楽園】にいた日銀に、目標達成の義務を与えます。その中身については、前稿にて書きました。そして、きちんと政策が実現できているのか、第三者機関を作って、監視と評価を行います。日銀側の説明次第では、総裁を含む政策委員会のメンバーの人事にも影響を与えられるような第三者機関です。
 以上が、インタゲ政策の前提です。これくらいやることを前提に、インタゲを唱える人は主張いるんじゃないかとおもいます。単に「名目インフレ率2%維持できるよう制御せよ」とだけ叫んでいるわけじゃないのです。
 本書の最大の見所は、日本と他国の金融政策を制度比較して、どのような点に前者の問題点があるのかを説いた点です。(注1)この点を無視しておきながら、数理的に「机上の計算」だけしてリフレ派を批判するのは、もしそんな人がいるなら、羞恥心が残存している限り控えましょう。まずは、他国での金融政策のありかたに学ぶべきです。それを踏まえたうえで、批判をするのは有益なはずです。

金利利上げで得をする人は、お金持ちだけ?■

 「預金者保護のために利上げすべし」という考え方は、限られた富裕層をもっと保護せよといっているに等しい (105頁)

 安達誠司氏の論文から、著者はそう述べています。正直、預金金利上昇で生活が一変するのは、富裕者ぐらいです。金利で生活してる人ってことは、預金を相当額お持ちって事ですからね。
 安達氏には、野心的快著『脱デフレの歴史分析 「政策レジーム」転換でたどる近代日本』や、円高のもたらす損失を説く『円の足枷 日本経済「完全復活」への道筋』などがあります。いずれも好著ですので、おすすめです。

(了)


 (注1) 制度比較という点では、高橋洋一インフレ目標政策への批判に答える」(『RIETI』様)は、日本において、「先進国では常識になっている予算制度のルール」を作成するよう提言しています。曰く、

 欧州の国をみても、インフレ目標政策があっても財政規律は日本よりは保たれている。というのは、財政赤字や債務残高を制限する予算制度のルールが存在しているからだ。国際比較研究によれば、日本の財政規律については、そのような予算制度のルールがないことや財務大臣の権限の弱さ等の問題点が指摘されている。