佐藤優の「明石作戦」擁護 に対する疑問  /稲葉千晴『明石工作』について

これが、ガセであることを祈りましょう。とあるところからのコピペ。 

藤原: 明石の工作は実は効果がなかったとしている本が日本でも出ましたよね。あれは信頼できるんですか。
佐藤: 私はあまり信頼していません。明石の行動記録についてはロシアですでに公刊されています。邦訳もあります(パヴロフ/ペトロフ共著[左近毅訳]『日露戦争の秘密−−ロシア側資料で明るみに出た諜報戦の内幕』成文社、一九九四年)。稲葉千晴さんの『明石工作』(丸善ライブラリー、千九百九十五年)はそれを資料にしているんですが、そもそもろロシアの原資料が、明石工作はたいして意味がなかったというふうに情報操作する目的をもっていますから、それを批判的な視点なしで紹介するのは意味がないし、むしろロシアのプロパガンダに協力することになる。だから私はあの本は紹介しないんです。

「座談会  対ロシア情報戦略の虚々実々」 藤原正彦/水木楊/佐藤優
文芸春秋12月臨時増刊号『「坂の上の雲と」司馬遼太郎』所収

 「明石の行動記録についてはロシアですでに公刊されて」いて、「稲葉千晴さんの『明石工作』(丸善ライブラリー、千九百九十五年)はそれを資料にしている」が、「そもそもろロシアの原資料が、明石工作はたいして意味がなかったというふうに情報操作する目的をもって」いるから、「それを批判的な視点なしで紹介するのは意味がないし、むしろロシアのプロパガンダに協力することになる」。
 なるほど。よし、Disっておきましょう。
 稲葉本のあとがきにもあるとおり、この本は、冷戦後の海外の(日露以外も含む)研究者たちとのネットワーク的連結で実現した書物なのです。複数の研究者の協力があって成立する本書ですが、彼らもまた、「情報操作する目的」があるということでしょうかね。
 まあ、百歩譲ってもいいでしょう。でも、旧ソ連の研究者の他、フランスの研究者も、このネットワークに加わっていたはずなのです。本書によると、フランス側にも明石の行動は察知されていた、と書いてあったはずです。心配されている「ロシアの原資料」だけ使って書いてるんじゃありませんよ。
 そもそも、あらゆる国家関係の文書は、プロパガンダの可能性をもつのです。ゆえに史料批判があります。「情報操作する目的」が資料に伏在することなど、あらゆる歴史家にとって当たり前です。あらゆる史料が、「批判的な視点なしで紹介するのは意味がない」のです。
 あと、稲葉本が出て以降、本書の主張を覆すだけのきちんとした反証はありますでしょうか。実に、本書刊行から10年以上たっているのですが、もしそういった論駁してる文献・史料があったら、おしえてくださいませ。まさかそれもない、というのでしょうか。まあ、あるんだったら佐藤氏は出してるでしょうね。本書よりも、自分自身に「批判的な視点」が必要ではないでしょうか。
 それにしても、ずいぶんとインテリジェンスという職業は、楽なのですね。インテリジェンスといっとけば、あらゆる情報は「プロパガンダ」でカタがつく、と。みんなインテリジェンスを名乗りましょう。素敵で楽な商売らしいので。まあ、対談相手があの数学者様である時点で、胡散臭いのですが。
 ちなみに、稲葉本のオチは、ロシア革命が成功したのは、もちろん明石工作などではなく、レーニンが軍部にシンパを拡げた結果が大きい、という話です。インテリジェンスとしては、まず自衛隊員たちの思想を心配したらいかがでしょうかね。がんばってください。


 (あとがき) 以上の件は、実は手元に稲葉本なしで書いているので、多少不安があります。間違いなどありましたら、ご指摘ください。
 ただし、佐藤には、重い「前科」があるので。詳細は、「アパグループ「元谷外志雄」の陰謀論をあの「佐藤優」が大絶賛」(『kojitakenの日記』様)などをご参照ください。