小論:江畑先生と斬首戦略、について -普天間基地の問題-

■前段■
 某掲示板の記事のコメ欄の方で、なぜか、拙記事へリンクが張られていました。どうやら、故・江畑謙介氏の普天間基地問題への言及ということで、取り上げられたようです。本当の出典元は、「軍事板常見問題&良レス回収機構」様なのですが。
 詳細は、拙稿「仮説的に、九州への代替基地移設の可能性を考える」か、出典元をご参照ください。
 その際こちらは、「全部とは述べておりませんが、大半の海兵隊を九州に移設させることは可能かもしれない、と江畑氏は述べていたようです。グアム移設分も考慮すると、残りの部隊の九州移設は、実現性が高いように思います。」と書いています。
 それに対して、コメ欄には、

>162
でも、結局徳之島案も鼻で笑われる程度でおしまい、グアム移転もありえない。
主力は相変わらず沖縄。
江畑さんにしたって“大半移せるかも”というだけで、結局一部は残すというアイデア
(やっぱり、ヘリですぐに行ける先遣隊は必要ということだろうね)
江畑さんでも間違いがないわけじゃないし。
Posted by 名無しT72神信者 at 2010年09月06日 19:56:53

 このブログのコメ欄の評判の良く無さについては説明するまでもありませんが、とりあえず、この江畑先生への敬意の無さは、気に食わないものがあります。それに、解釈にも問題があるように思います。実際、

# >167
>やっぱり、ヘリですぐに行ける先遣隊は必要ということだろうね
エバケンはそんなこと一言もいってないぞ。
Posted by 名無しT72神信者 at 2010年09月07日 00:14:09

 というコメ欄の突っ込みもあるようですので、一回検証してみます。こういうツッコミがきちんとある点、素晴らしいですね。

■本題■
 「主力は相変わらず沖縄」という"信仰告白"については、ノーコメントです。結局政治的な問題に過ぎない、というのがこちらの考察するところですが、これも置いておきましょう。弊ブログの主張については、例えば「普天間」を検索していただければと思います。
 さっそく、「(やっぱり、ヘリですぐに行ける先遣隊は必要ということだろうね)」という薄弱な推論を検証してみましょう。(ただし、以前に書いた時とは少し考えが違いますので、その点ご注意ください。)
 まず、こちらの知る限り(たいして知ってませんが)、江畑先生による斬首戦略へのコメントは、聞いたことがありません。
 ただ、「この案を実現するためには,「いつでも海兵隊が沖縄ないしは日本にやってこられる」という能力を具体化し」と述べているので、沖縄に海兵隊を集める必要性がないような読み方が可能ですし(あくまで「可能」ではありますが)、「実際問題として,高速輸送艦の実用化により,こと東アジア地域においては,米海兵隊の基地が沖縄にあろうが九州にあろうが,移動に要する時間はそれほど違わないという条件になってきた.」というのを読む限り、やはり、江畑先生は斬首戦略をあまり気にしていない、というべきではないでしょうか。気にする人は、こんな書き方をしないと思います。
 「既に九州の日出生台演習場には海兵隊砲兵部隊が実弾射撃の訓練のために,ほぼ定期的にやって来ている.それが面倒なので,砲兵部隊だけでも本土に移転させたらどうだろうという案が日本側から出ている.ならば,いっそのこと沖縄の海兵隊部隊の大半を,九州に移動させるという方法も検討してみる価値があるだろう.」と書いていますし、「海兵隊の遠征部隊(MEU)を載せる揚陸艦部隊が佐世保を母港としているなら,九州に沖縄の海兵隊部隊を移転させるという方法も考えられるのではないか」とも書いています。
 読解の可能性として、「現状は海兵隊の大半のみを移動→将来的には全部も視野に」と読みうるのではないかとこちらは考えます。「沖縄の海兵隊部隊の大半を,九州に移動させるという方法も検討してみる価値がある」というのは、「砲兵部隊だけでも本土に移転させたらどうだろうという案」に対応した言及であって、「実際問題として,高速輸送艦の実用化により,こと東アジア地域においては,米海兵隊の基地が沖縄にあろうが九州にあろうが,移動に要する時間はそれほど違わない」という言及を見れば、将来的には、その可能性は否定できないと思います。
 まあ仮に、「大半のみの移動が限界」説だとしましょう。しかし先生は、「高速輸送艦の実用化により,こと東アジア地域においては,米海兵隊の基地が沖縄にあろうが九州にあろうが,移動に要する時間はそれほど違わないという条件になってきた.」といっておりますし、それに、斬首戦略を当時先生が知らなかったとは考えにくいのです。
 とすると、やはり、【斬首戦略があったから、沖縄に海兵隊を残留させたのだ】という理由付けは考えにくいのではないでしょうか。
 さらに補足情報として。江畑先生は、「当時はまだ「プレゼンス」という概念,すなわち,そこ(沖縄)に常に存在している(周辺地域にその存在を見える形で示し続ける)という点が重要で,この方式はあまり現実的ではなかったが,時代は変化した./本文で述べたように,従来の恒常的プレゼンスの概念に代わって,必要な時にその場に米軍戦力が展開できるような能力を維持することが重要と考えられるようになってきた./それならば米海兵隊は沖縄に常駐している必要はないはずである.装備はオハンロン/モチヅキ案のように,事前集積船に搭載しておけばよい./だが,この案を実現するためには,「いつでも海兵隊が沖縄ないしは日本にやってこられる」という能力を具体化し,示して見せねばならない.」と述べています(前掲)。
 これを読む限り、ここでも斬首戦略は気にされていないのです。「いつでも海兵隊が沖縄ないしは日本にやってこられる」という能力を具体化することが条件ですが、常駐の必要性はないようなのです。
 以上、読解の可能性として、江畑先生が「全部九州移設」説を考えていた可能性は、ありうるのではないかと考えます(異論はありうるでしょうが)。そして今のところ、先生が斬首戦略を考慮に値するだけの一件と認めていたかといえば、その可能性はかなり低いでしょう。
 前者の異論は認められますが、後者は正直認め難いです。

(了)