コレットによるコスプレと、性愛遍歴について 工藤庸子『砂漠論』(5)

コレット・コスプレ・性愛■
 プルーストは女性的な側面がある云々という話をしましたが、次は女性の作家であるコレットについて。コレットプルーストの間には親交がありました。ちなみに、著者は、コレットの伝記を翻訳してもいます。
 「15歳年長のアンリ・ゴーティエ=ヴィラールと結婚。処女出版された『クロディーヌ』シリーズは、「ヴィリー 」(Willy)名義で(夫の筆名で)世に送り出された(夫婦合作とも言われる)」というWikipediaコレット項の記述で分かるように、最初は夫の筆名という形で世に出ます。その際、彼女はクロディーヌのコスプレもしています(させられています)。(注1)
 夫とは離婚しますが、その前後から、彼女は様々な形で(例えば舞台で)「コスプレ」をすることになります。じっさい、「パリのミュージック・ホールでパントマイムや踊り子として活躍を始め」たりしています。そのときから、フィクションの人物になりきることの醍醐味を知ってしまったのではないか、と著者は言います(37頁)。クロディーヌを演じた彼女は、その後自身の小説『シェリ』や『さすらいの女』などの演目で舞台に立ち続けました。
 挙句の果てには、実生活で、フィクションの筋書きそのままに、義理の息子と恋愛してしまいます。連れ子だったベルトランでした。奔放なのはそれだけでなくて、「同性も対象とした華麗な恋愛遍歴で有名」とWikipediaにあるように、関係を多くの女性と結びました。その一人として、ミッシーがいます。
 「ナポレオン3世の血縁者を名乗っていたベルブーフ侯爵夫人ミッシーであり、2人は舞台上で共演することもあった」のです。実際、彼女はかのド・モルニーの実の娘に当たります。ド・モルニーについては、蓮實『帝国の陰謀』にも書かれていますね。
 さて、そんなコレットの小説での描写ですが、随分即物的・解剖学的なのです(64頁)。「しっかり滋養をあたえられ、筋肉を露出させず」とか、「その裸の上半身、女のように柔らかな肌とそのしたで蠢いている非の打ちどころのない筋肉、超然として誇り高い身体の窪みや隆起」とか、「慎重に胸を隠した敏捷な上半身、誇らしげにくねる背中、筋肉にしっかりつつまれた腰骨、長い腿と繊細な膝」など、こうしてみると確かに即物的・解剖学的です。「コレットの小説は、味な観察力と、つまびらかであからさまな文体が特徴的である」Wikipediaにありますが、こういうところが、それをあらわしています。
 


(注1) 「コレットのレヴュー「パリのクローディーヌ」」(『100年前のフランスの出来事』様)には、クロディーヌを演じていたコレットの画像があります。

(続く)