農業と「食の安全」の実情について -自給率と食中毒-

 丸川知雄『「中国なし」で生活できるか』を読む。
 まあ、結論から言うと、現状できない。



 幾つか面白い所を取り上げたい。

 例えば、無農薬・減農薬に向いているのは、むしろ中国というお話。
 山東省は日本向け野菜の最大の産地に当たる。
 日本より乾燥した気候なので、虫は発生しにくいし、冬は零下まで気温が下がるので、越冬栽培すれば、農薬を使わず野菜を作れる(49頁)。
 また、農薬を使わない分、雑草や無視の除去に人手がいるが、中国は労働力が豊富で、労賃が安いのでそれも可能。

 安い無農薬野菜なんて、国内だと絶対不可能だもんね。



 自給率の件も載っている。
 要するに、「カロリーベースの総合食料自給率」の件(60頁)。
 日本の場合、畜産物の自給率は16%、小麦13%など、カロリーを多く摂取している食品の自給率は低い。
 その一方、野菜の自給率76%、魚介類59%、果実35%など、カロリーが低くても、価格はいいものの自給率は比較的高い。

 なんで、後者が比較的自給率が高くなるかといえば、付加価値の高いものを農家が作ろうとするから。付加価値が低いものは輸入し、高いものを作る。実に自然な姿。
 もし、農水省がカロリーベースの自給率を本気で上げたいなら、米国から輸入しているカロリーの高い食品の輸入を止め、自国で生産するようにすればいい。
 もちろん、やるわけないんだよねw



 二〇〇八年で、日本での食中毒事件は1292件。うち、中国産食品が原因のものは、たった3件。
 例の毒入り餃子事件だけ(74頁)。

 要は、それ以外の日本の食中毒事件は、報道されてないだけ。
 なんという報道バイアス。
 ちなみに、飲食店での食中毒事件は、年間600件近く、1万3千人以上の患者が発生している。
 中国産食品は、きちんと検査しているので、その分国産より安全といえるわけですよ。



 例えば、東京都内では、1975年まで、毒性の強い殺虫剤ディルドリンを使用していて、これがまだ土壌に残留している。
 だから、都内で収穫されたキュウリから、政府が決めた残留基準の最大5倍のディルドリンが検出されることもあるという(86頁)。
 自家製農園って、必ずしも安全じゃないのね。