「プルーストってどんな人?」前編 -彼の文章の秘密と、愛について-

 アラン・ド・ボトン『プルーストによる人生改善法』を読む。
 期待してた以上にに面白かった。



 プルーストってどんな人?
 ある当時の駐仏英国大使曰く、「これまで私が出会った中で一番驚くべき男だ」
 なぜか。
 「なにしろディナーのあいだも外套を着たままだったからね」(11頁)



 プルーストってどんな人?
 失われた時を求めて』という小説のタイトルを、ずっと気に入ってなかった人(15頁)。
 曰く、「不適当」(1914年)、「誤解を招く」(1915年)、「醜悪」(1917年)



 プルーストってどんな人?
 新聞を読むのが好きな人。
 二十四時間以内に宇宙で起こる不運や、社会的変動、戦争、殺人、スト、破産、火事、離婚、政治家や俳優の冷酷な感情、そういったものが、無関心な我々のために形を変えて、朝の思いがけない楽しみとなるから、と(40頁)。
 でも彼の場合、読み方が少し違った。ドーデによると、彼は「丹念に新聞を読んだ。ベタ記事さえ見逃さなかった。それは一編の悲劇や喜劇になった。彼の想像力と幻想力の賜物である。」
 彼の読み方は、そのまま、彼の書き方に通じる。
 彼は、丹念に書いた。
 一つ一つ丁寧に。
 だから、彼の文体も小説そのものも、あのように長くなった。



 プルーストってどんな人?
 過剰に母へ甘え、過剰な母への愛にさらされた人。
 彼、マルセルが24の時、母の元を離れた。彼は母に手紙をしたためた。
 内容は、自分が良く眠れていること、他に、便通や食欲について。
 あるとき彼は、こう手紙に書いている。
 「パパに訊ねてほしいのですが、おしっこをする瞬間、焼けるような感じがするのはどういうことでしょう?そのせいでの中断と、その後の再開を、十五分に五、六回行なう羽目になります。」
 この手紙を母に書いたとき、プルーストは31歳。母は、53歳だった。
 (ちなみに、良く知られているように、マルセルの父は医者だった。) 
 ただ彼は、母の過剰な藍についても次のように書いている。
 「僕の体調がよくなったとたん、僕の体調をよくする生活がお母さんをいらだたせるため、僕が病気になるまで、お母さんは何もかも滅茶苦茶にしてしまう」(71頁)
 共依存的な母子関係だった。



 プルーストってどんな人?
 同性愛者だったひと。
 でも彼のその同性愛的特長は、次の言葉に表れている。1911年のとある若者への告白。
 「君を心から抱擁するために、僕の性と年齢を変えて、若い、美しい娘の姿になることさえできたら」(74頁)
 彼自身は、女装癖も、女性的な格好もすることはなかった。
 ただ、彼は、愛する者の望む存在へと変容することを望む人だった。
 「〜になること」。変容すること。