「10個の2位よりも、1個の1位を目指せ」的な話なわけですよ -飯田泰之,坂口孝則『経済とお金儲けの真実』を読む-

 飯田泰之,坂口孝則『経済とお金儲けの真実』を読む。
 目次を見ると「釣り」が多いけど、指摘は比較的マトモですw
 経済(マクロ)とお金儲け(ミクロ)の関係を、主題にした珍しい(?)本かも。

 それにしても。この本にも、戸籍法がなぜ未だに残っているのか分からない、という記述があるけど、確かに、なんで住民票があるのに、こんな戸籍法とか必要なんだろう?



 公共事業について。
 飯田先生曰く、新規の公共事業だと、3割くらいが土地収用代になっちゃうけど、橋梁や効果の補修工事なら土地収用費はゼロだから、公共工事も有効だという(75頁)。
 納得の意見。

 ただし、補修が高い経済効果を持つ公共事業は、大部分が、東京や大阪の大都市圏に集中してしまう(同頁)。
 でも、日本ではたいていの場合、公共事業が、地方への再分配目的で行われてしまう。

 このギャップが悩ましい。

 となると、経済効果目的の公共事業は大都市圏に集中し、必要最低限の補修工事のみを地方に行い、地方への再分配はコンクリート以外の雇用対策で行うしかないのだろうか。
 (ただ、地方への再分配のための優良な雇用対策とは、いったいなんだろうか。



 飯田先生曰く、ここまで産業化の進んだ社会でCO2負荷を減らすなら、もう生産や物流のスピードを落すしかない、納期の遅れを覚悟するしかない、と(79頁)。
 なんと、あっさり認めておられる。この解答は至極正しい。
 そう、それしかないのよ。



 坂口氏は、

 日本企業は、「万が一のことは起きてはいけない」と、その予防策だけを真剣に徹底的に考える。でも、その万が一っていうのが起きたときの損害予想評価をしているところは少ない (略) 慎重を期したい場合は、それこそ保険をければいい

 と述べている。2010年1月時点の書籍で。
 これを聞いて耳の痛い企業がありますよねw



 飯田先生から、貧困ビジネスの問題について(132頁)。
 市民団体系のNPOの場合、生活保護受給者に、社会復帰して自立するよう、生活指導や職業訓練の奨励をする。
 でも、それをうっとおしいと思う人もいる。
 対して、貧困ビジネス系のNPOの場合、金さえ払えば、1日中寝ていようが何も言わない。
 そうして、長い間搾り取ろうとするわけだ。

 この問題の根源は、実際のセーフティネットが、自立支援のためのものとして機能していない点がある。 
 だからこそ、上手く制度設計をして、一定額までは働けば働くほどお得な、給付付税額控除を導入すべきだ、と考えるが、どうだろうか。
 無論、職業訓練の充実や、企業の姿勢の変化などは、その前提として必要なのだけど。
 



 飯田先生から。

 日本には、労働者階級全体の利害を代表する政党が存在しない。
 社会党民社党も、事実上は、大企業の正社員の利害を代表していただけに過ぎない。
 全国の労働者、特に失業者は、有効な圧力団体を作る資金力もないので、その人たちの利害を代表する政党もない(207頁)。
 共産党さえも、支持者はインテリ率が高い。低所得者や失業者の味方はしてくれるけど、その当事者そのものではない。
 どこの国でもそうだが、今の左翼運動が厳しいのは、最終的には「金持ちの道楽」に頼むしかないことだ。

 「日本には、労働者階級全体の利害を代表する政党が存在しない」は事実だし、旧社会党民社党の件も、間違ってはない。
 「全国の労働者、特に失業者は、有効な圧力団体を作る資金力もないので、その人たちの利害を代表する政党もない」は、中小零細企業や失業者については、正解。
 共産党の件は、少なくとも共産党支持者の件なら、正しい。
 でも、「金持ちの道楽」云々については、以前書いた「労働組合強化のために -EUの事例から-  濱口桂一郎『新しい労働社会』(7)」の中身を日本でも実行してから、いって欲しいですなw



 最後に、飯田先生からの、シュウカツの話。
 
 シュウカツしてて、自分が何社にも雇われるなんてありえないんだから、100点付けてくれる1社にぶち当たればいいのであって、全部の会社に70点もらおうとするのは意味ないよ、と(232、233頁)。

 これ、仕事上のコンペとかでもいえるよね。
 いろんな会社の中で、1位以外は負けなんだから。
 全ての会社において2位になるんじゃなくて、ある数社だけでも1位にならなきゃ。

 「1クールのレギュラーよりも1回の伝説」という名言を思い出したけど、
  これとはちょっと違うかな?w