今度の参議院選挙では、争点の中心は、「増税」であり、特に消費税が中心のようです。これについては、既に巷間で行き渡っていることです。まあ、増税問題については別途何か書きたいと考えております。
一方で、なっておかしくないのに、ほとんど争点にならないものもあります。ずばり改憲問題(とくに9条問題)です。まあ、この不景気だと、今後も改憲が争点になることはないでしょうが。これは、前の前の前の前の内閣の鑑定が崩壊したせいでしょうけど。
菅原琢『世論の曲解』のメインテーマは、小泉政権の政策は「都市部寄り、若年・中年層向けに政策路線をシフトするという的確な対処法」を行っていた(11頁)、しかし小泉以後の自民党政権はそのことに気付かなかった、ということにあると思います。
あまりウェブの書評で言及されませんが、実はこの本は、改憲問題についても触れています。
例えば、「小泉はかつて革新と呼ばれていたような「野党的」な層を多く惹きつけていたが、これらの人々は安倍政権の方針や政策とは相容れなかったのである」という一文(114頁)。当時の世論調査を見ても、小泉時代のイラク派兵や、靖国参拝は、「野党的」(リベラル)な層には、やはり不評だったようです。
しかも、著者の用いる朝日新聞の世論調査によると、若年層の場合だと、過半数が9条改正反対です(全年齢層で過半数超えですが)。プライバシー権や環境権の憲法への盛り込みも過半数が賛成しています(高齢になるほど反対している)。
むしろ、別調査では、「高齢層のほうが戦力保持の明記や集団的自衛権の明記に賛成する割合が高く、若いほど賛成率が低い傾向が見られる。一方で9条の変更への反対割合は、高齢層と大きく変わらない。むしろ目立つのは「どちらとも言えない」の割合の高さである」わけです(232ー234頁)。(注1)
著者は、「プライバシー権を盛り込むために改正したっていいし、天皇制を廃止するのにも憲法改正が必要だ。憲法改正という言葉から、すぐに「右傾化」を導いてしまうのが、そもそもの間違いなのである」と適切に評しています(201頁)。【憲法改正志向≠9条改正志向】ではないのですね。リベラル志向の改憲というのは、たしかにアリです。護憲派の人々にお勧めですが、いかがでしょうか。
さてさて、構造改革推進派の「都市部寄り、若年・中年層」の支持を得ることが、政権を取るカギになるということが本書のキモになるわけですが、では彼らの支持を得るには、改憲問題(ここでは9条の問題)にどのように対処したらいいのか。
結論を言えば、何もしないこと、声高にはなにも言わないこと、せいぜい熟慮とかとか、国民的議論とかを語っておくこと、あるいは護憲・改憲どちらにせよ、超党派での開かれた場を設けて時間を稼ぐこと(スマートな言い方をすると、徐々に慎重にヘゲモニーを握ること)、となるでしょう。とにかく急がないことです。(注2)
性急に行おうとすると、「都市部寄り、若年・中年層」が、左右対立で分裂するリスクがあるためです。だから、「構造改革」のためには、改憲問題は避けておくのが一番です(特に、「みんなの党」はそういう戦略のはずです)。
強いていうのならば、「野党的」(リベラル)な層に受けるような、戦略をとるべきでしょう。「若年層の場合だと、過半数が9条改正反対」なのですから。
まあ、憲法改正を言うなら、自衛隊云々よりも先に、現状の強い参議院の力を弱める方がずっと重要でしょうが。参議院選挙には、参議院の力を弱める政党に投票しようかな、と思っているのですが、いかがでしょう。もちろん、議席数削減とかで、お茶を濁さない政党を。
(注1) この調査は、どうやら、2004年時点での調査のようです。六十代以上と言うことは、このとき60歳の人は、終戦時11歳。70歳の人は、終戦時21歳。なるほど、徴兵年齢よりも若かったのに、法案に賛成しようとする人がいるようです。もし日本が徴兵制になったら、あんたら参加しろよ。
(注2) それにしても、「国民的な議論」っていったい何なのでしょうか。そんなものは、存在するのでしょうか。
ちなみに、普天間の問題ですが、もし「構造改革」を優先するのなら、なあなあにしておくことが、一番最善の方法です。ただし、それは問題を解決したことになりません。個人的には、以前提案した方法をお勧めしたいところです。詳細拙稿「仮説的に、九州への代替基地移設の可能性を考える」などをご参照ください。
* 2010/7/8 一部訂正いたしました。でも論旨には変更ありません。