2014-01-01から1年間の記事一覧

演歌は「日本の心」というより、素晴らしき「雑種」なんだぜ、っていう話。 -輪島裕介『創られた「日本の心」神話』-

輪島裕介『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』を読んだ。 超面白い。 内容はタイトル通り、「演歌=日本の心」っていう図式は、「伝統の創造」じゃないの?、それって昔っからじゃなくて「最近」できたものじゃないの?、って内容で…

これは、縛られることのない、「我慢しない」生き方への実践書である。 -田中美津『かけがえのない私、大したことのない私』-

田中美津『かけがえのない私、大したことのない私』を読んだ。 これは、縛られることのない、「我慢しない」生き方への実践書に他ならない。(いや、違うかもしれないが。)かけがえのない、大したことのない私作者: 田中美津出版社/メーカー: インパクト出…

「同化」と「近代化」のはざま、あるいは、知里真志保について貴方がまだ知らないこと -藤本英夫『知里真志保の生涯』を読みながら-

知里真志保について書きたいと思う。 二つの「アイヌ」 知里『アイヌ民潭集』の後記(昭和10年2月18日)に次のようにある。アイヌ民譚集―えぞおばけ列伝・付 (岩波文庫 赤 81-1)作者: 知里真志保出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1981/07/16メディア: 文庫…

敵の物理的なプレッシャーがかかっても、練習通りのことを淡々とこなすのが本物の技術 -千田善『オシムの戦術』を読む-

千田善『オシムの戦術作者: 千田善出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2010/05メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 19回この商品を含むブログ (14件) を見る』を読んだ。 著者の親戚の関係である吉田戦車が、表紙を書いている。 ジャケ買いしちゃうぜ(マテ…

共感だけじゃダメなのよ、あるいは、「聴く」とは何か、というお話。 -六車由美『驚きの介護民俗学』、向谷地生良『技法以前』-

六車由美『驚きの介護民俗学』を読んだ。 確かに驚く。 ふつう、介護と民俗学は結び付かないから。 本書は、サントリー学芸賞を受賞するほどの学者さんが、静岡の老人ホーム(のデイサービスセンター)で介護職員として勤めるようになり、その現場で高齢者た…

読売新聞が、サッカーチームの訪朝を後押しした時代 -在日サッカーが「最強」だったころ- 木村元彦『蹴る群れ』を読む

木村元彦『蹴る群れ』(文庫じゃない方)を読んだ。 とりあえず、興味深かったところだけ。 (本当は、小幡忠義氏や、イルハン・マンスズやサビチェビッチのこととか、書きたかったのだが、まあ、いいや。)蹴る群れ【電子書籍】[ 木村元彦 ]ジャンル: 本・雑…

融通無碍、あるいは、相撲の歴史と「由緒」と「差別」の話 -新田一郎『相撲の歴史』を読む-

新田一郎『相撲の歴史』(文庫版)を読んだ。相撲の歴史 (講談社学術文庫)作者: 新田一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/07/12メディア: 文庫 クリック: 10回この商品を含むブログ (10件) を見る 相撲は大好きである。 あれはすぐに決着がつく、素晴らし…

「皇室中心・国家本位」と「朝鮮人虐殺」からみる、警察の歴史 -大日方純夫『警察の社会史』を読む-

大日方純夫『警察の社会史』を読んだ。警察の社会史 (岩波新書)作者:大日方 純夫発売日: 1993/03/22メディア: 新書 以下、気になったところだけ。 実際には娼妓の自由廃業の前には、依然としてたかい塀がたちふさがっていた。 (略) 遊郭主と警察が結託して…

アイロニーとしての小説、あるいは、「血肉」と「生命」と「喜劇」から みる近代小説 -中村光夫『風俗小説論』-

中村光夫『風俗小説論』の文庫版(新潮文庫)を読んだ。 これで何度目なのか。風俗小説論 (新潮文庫)作者: 中村光夫出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1958/05メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 7回この商品を含むブログ (5件) を見る 意外と読まれていないんじ…

「非モテ」演出と私小説、あるいは、<岩野泡鳴 VS 猫猫先生>という「私小説」に期待する話。 -小谷野敦『私小説のすすめ』-

小谷野敦『私小説のすすめ』を読んだ。 あの猫猫先生が書いた、と理解していれば、実に面白く読める。 小説に興味のある人は、読んで損なし。 知識は間違いなく身に付くし、著者の主張から学ぶべきところは多い。 「文学とか文学史からみればかなり画期的で…

「天皇にしても、ほかの権威にしても、国民にとっては与えられたもの」と大平正芳は書いた。 -福永文夫『大平正芳』再読-

福永文夫『大平正芳』を読んだ。 大平について、以前、阿片の件でブコメをしたので、久々に本書を読んだ。 amazonで評者さんの一人が引用しているように、「大平は極端を嫌い、矛盾する事象に楕円のバランスをとり、粘り強い対話を重視した。また政府の役割…

「兵士は天皇のために死んだ」という建前が消えた戦後 -小沢郁郎『つらい真実 虚構の特攻隊神話』再読-

小沢郁郎『つらい真実 虚構の特攻隊神話』を再読した。 これで何度目か。 すでに他のブログさんで取り上げられている( これとか、これ。あとはこれも )が、「特攻」を知る際、読んでおきたい本の一つだ。 とりあえず、書いておきたいことだけ。 大西瀧治郎…

ともあれ、「加害者の顔が見えない"和解"は茶番である」というような話。 -梶谷懐『「壁と卵」の現代中国論』再読-

梶谷懐『「壁と卵」の現代中国論』を読んだ。「壁と卵」の現代中国論: リスク社会化する超大国とどう向き合うか作者: 梶谷懐出版社/メーカー: 人文書院発売日: 2011/10/14メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 59回この商品を含むブログ (38件) を見る 2011…

なぜ日本は女性ホームレスが「少ない」か。あるいは、「自立」・「自律」再考 -丸山里美『女性ホームレスとして生きる』について-

丸山里美『女性ホームレスとして生きる』を読んだ。女性ホームレスとして生きる―貧困と排除の社会学作者:丸山 里美発売日: 2013/04/03メディア: 単行本 珍しい女性ホームレスを扱った本書だが、その実態を論ずるだけではなく、女性ホームレスの存在を通して…

マナーは思いやりではなくて、単なる他者との共存のすべである、という話。 -野矢茂樹編『子どもの難問』を読んで-

野矢茂樹編『子どもの難問』を読んだ。 幾人もの日本を代表する哲学者たちが、「子どもの難問」に、こたえていく内容。 一つの問いあたり、二人の哲学者が担当しており、その対比も見どころ。 じつは、最大の読みどころは、巻末に載っている哲学者たちの出身…

「分かるやつにだけは分かる」こと、あるいは、近代芸術の「逆説」 -阿部良雄『ひとでなしの詩学』から-

阿部良雄『ひとでなしの詩学』を読んだ。 詳しい内容については既に、書評がウェブ上に存在する。(良い阿部良雄入門にもなっているので一読してほしい。) 以下、気に入ったところだけ書く。 写実主義から印象主義へと、描く対象が市井の人々や見慣れた風景…

「きれいな被害者」を求める社会は、幼稚だと思う。 -宮地尚子『トラウマ』雑感-

宮地尚子『トラウマ』(岩波新書)を読んだ。 トラウマとは何か、そしてトラウマに関する諸々を学べる良書。 初心者にもとっつきやすい。 興味を持ったところだけ書いていく。 裁判などで「事件の次の日も平気で仕事に行ったのは不自然」ということで犯罪報…

あなたが芸術を習うことの意味について -アラン・ド・ボトン『旅する哲学 大人のための旅行術』番外編-

アラン・ド・ボトン『旅する哲学 大人のための旅行術』を読んだ。 以前、同じ著者による『プルーストによる人生改善法』についても取り上げたことがあるが、やはりこの本も面白い。 特に面白いと思ったところだけ取り上げる。 ディオゲネスは「ギリシア人と…

山県有朋の処世から、陸軍が投げた大ブーメランまで -大江志乃夫『日本の参謀本部』を読む-

大江志乃夫『日本の参謀本部』を再読した。 もう古典になった気もするが、まだまだ読むべきところは多い。 ちなみに、Apemanさんも感想を書いている。 面白かったところだけ。 山県が(略)その地位を保持することができたのは、情報政治に負うところが大きい…

とりあえず、京の都は「日本的」ではないよね、みたいな話 -渡辺浩『日本政治思想史』について-

渡辺浩『日本政治思想史』を読んだ。 かなり面白い。 過去に著者が行ってきた講義が原型となっているためか、初心者にもわかりやすく(こっちは初心者ではないが)、江戸の政治思想(政治だけではないけど)が、よく理解できる良書。 江戸期の「思想」が現代人に…

かつて、学校が生徒に、電話のかけ方から貯金の仕方まで教えていた時代があった。  -広田照幸『教育論議の作法』を読んで-

広田照幸『教育論議の作法』を読んだ。 面白いし、これまでの広田先生の著作のおさらいにもなる。 特に興味深かったところだけ、以下に取り上げる。 1947年に教育基本法案が国会で審議されていた時、貴族院議員の澤田牛麿が質問している(38頁)。 こ…

「児童福祉の充実」この当たり前のことができていない。 -鈴木大介『家のない少女たち』雑感-

鈴木大介『家のない少女たち』(2008年)を読んだ。 本書は、児童買春が法で禁じられている日本において、その違法行為をすることで生き延びている者たちの実態を描いたルポルタージュである。 今回は、その具体例に触れた本文に対する感想は書かない。 ここで…

満洲の棄民、あるいは、裏切られた「戦場の花嫁」について -東志津『「中国残留婦人」を知っていますか』を読んで-

東志津『「中国残留婦人」を知っていますか』を読む。「中国残留婦人」を知っていますか (岩波ジュニア新書)作者:東 志津発売日: 2011/08/20メディア: 新書 ジュニア新書と思って侮るなかれ。 良書である。 ほかにも読まれるべき個所をいくつも含んでいるの…

何で日本は入学試験が厳しいシステムになっているのか、というお話。 -天野郁夫『試験の社会史』を読んで-  

天野郁夫『試験の社会史』を読んだ。 正確には再読なのだが。 興味深かった所だけ。 まず、試験と競争の歴史について。 実は、競争と結びついた試験は中国の科挙に始まる(27頁)。 科挙の存在が、欧州の啓蒙思想家たちに注目された歴史的事実は、よく知ら…

「急ぎすぎてはいけない」、あるいは、チベタンコミュニスト・プンツォク=ワンギェルの半生 -阿部治平『もうひとつのチベット現代史』雑感-

阿部治平『もうひとつのチベット現代史 プンツォク=ワンギェルの夢と革命の生涯』を読む。 知る人ぞ知る、プンワンの半生を綴った好著である。 彼が何者かについては、Wikipediaの記事を見てくれれば分かる。 (ただ、「帰国後、中国共産党の下部機関に組み…