これは、縛られることのない、「我慢しない」生き方への実践書である。 -田中美津『かけがえのない私、大したことのない私』-

 田中美津『かけがえのない私、大したことのない私』を読んだ。
 これは、縛られることのない、「我慢しない」生き方への実践書に他ならない。(いや、違うかもしれないが。)

かけがえのない、大したことのない私

かけがえのない、大したことのない私

終わらない「疎外」のようなもの

 体制の価値観を蹴飛ばして運動をしてみたら、今度は、ウーマンリブとしてこう考えなければならないという枠組みの中で生きなきゃいけなくなるような所がある、と著者はいう。
 自立した女はそんなことはしないとか、こうすべきだとか、見えない枠組みがある。
 でも、そういう枠組みは、「生身の私」よりもいつも狭い(15頁)。

 運動をやっていると、清く正しく美しく的なものがなんとなく強制されていく。
 この「なんとなく」が「いつだって曲者」だ(16頁)。

 何らかの既成のものを倒した先に、また見えない枠組みが自分を縛りつけてしまう。
 こうした終わらない「疎外」的な何か、に、著者は正面から向き合う。

「尽くす」快楽と呪縛

 例えば連合赤軍の良しとしたような、「大義のために私を殺す」といった、何かを我慢することによって生じる喜び、それから未だに私たちは自由ではない(58頁)。
 例えば、アル中を治すには、患者の妻が「いい妻」をやめることだと言われている。
 (その夫にとって都合のよい妻、ということだ。いうまでもなく。)
 でも、それがなかなかできない。
 「尽くす妻」をやることには快楽が伴う。

 我慢とは快楽であり、また、従属もまた快楽であり、そこに、人の不幸の大半は由来する、
 ような気がする。

自立を目指す私、なれない情けない私。二つの私。

 男に「見ないでよっ」と怒り、「どうして私は男のお尻を見ないの」と、自分に疑問を突き付けて取り乱す中に、リブのパワーがあった(93頁)と著者はいう。
 二つは擦れ合い、発熱し、その熱が運動を生起させる。

 毅然とした女、自立した女を目指しながら、でも、実際にはそこから程遠い情けない私だけども、その私を「良し」と認める所から始められる運動は楽だ。
 そのような「ここにいる私」から始められる女性解放だったことも、リブのパワーになったと著者はいう。

 二つの間の摩擦を自覚することが重要。
 でないと、運動は消沈する。
 あらゆる運動に言える、とは思う。
 「リブ」から、まだ学ばれていないことの一つだろう。

聖母なんかじゃない

 慰安婦だった人々、その人たちが自分たちにとって、聖なる存在であってほしいと人々は思う。
 でもこの人たちは聖母マリアじゃない。
 この人たちはお金もほしいし、さびしくてたまらないニンゲンだ(107頁)。
 もし生まれ変わるとしたら、男に尽くして良妻賢母として生きたい人かもしれない。

 私たちは、それをありのままに全て見て、心を痛めなければならない、とビョン・ヨンジュ(『ナヌムの家』の監督)は述べる。*1
 生身の人間としての彼女たちに、向き合えている人はそう多くはないだろう。

この人を見よ

 著者はもっとはっきりという。
 ハルモニたちに限って言えば、あの年で日本から来た若い者をコマす気力があるからこそ、あの年でカムアウトもできたんじゃないの、と。*2
 猫と日向ぼこっこしてるだけの好々婆じゃ、今日まで怒りを持続するなんてことも、出来なかっただろう。
 したたかさも大事なパワーだと(235頁)。

 聖母ではなく、この人を見よ、と。*3
 

ファンデーションで化粧をするか、マルクスで化粧をするか

 「化粧が媚びなら、素顔も媚びだ」と著者はいう。
 知的な女たちも、男たちに自分の知性を評価されたいという気持ちがある以上、媚びなわけで、結局ファンデーションで化粧をするか、マルクスで化粧をするかの違いでしかない(283頁)。

 「わかってもらおうと思うは乞食の心」と力強く書きつけた著者の言葉は、やはり深い。

おまけ

 とある議員、「東大出身で美貌で財務官僚というピカピカ女」について、なにがダメかって、あの髪型、男に媚びるのはいい、でも、そのために手段を選ばないって最低よ、と著者はいう。

 んtんとどkzとどkz尾rまたはい異kk。

 (未完)

*1:この映画や監督については、こちらのブログ記事http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20071101/1193933237やこちらのブログ記事http://notarin.exblog.jp/22142208/もご参照あれ。

*2:ここら辺のエピソードは本書を確認されたい。

*3:慰安婦問題については、いろいろ書きたいことがあるが、とりあえず、川田文子『イアンフとよばれた戦場の少女』http://blog.goo.ne.jp/ryuzou42/e/ee2d55e24d96b4325eddc2e2939a4256についてのリンクを貼っておく。