そりゃあ、下手な産業政策論より、(広義の)インフラ整備のほうがずっと平等ですよね -原田泰『日本はなぜ貧しい人が多いのか』を読む-

 原田泰『日本はなぜ貧しい人が多いのか』を読む。
 著者とスタンスを同じくする人も、そうでない人も、是非ご一読いただきたい。



 政府が、産業に出来ることについて(24頁)。

 日本政府が国内産業に出来ること。
 何をすればいいのか、実は学問的に、良く分かってない。
 どこに資源を投入すれば、民間が儲かり、国富となるのか。

 著者はむしろ、その産業自体じゃなくて、産業の土台(つまり、投入産業)の効率を高めて、国内産業の生産コストを引き下げたらどうか、と提唱している。
 投入産業とは、運輸、通信、電力、金融、工業団地、工業用水などの産業のこと。(著者は更に、税コストや、土地利用のコストも、下げたらどうか、と述べている。)
 要は、こうした投入産業の規制を緩和して、競争させれば効率が上がり、コストも低下するでしょう、と。

 確かに、ある特定の産業(自動車産業半導体産業など)にお金を投入して(あるいは税制優遇して)産業保護するより、こうした"後方支援"のほうが、各産業間の不平等はなくなる。
 お金を投入された産業と、されない産業との不平等も、お金を投入された企業と、されない企業との不平等も、この方法なら解消される。

 それに、国内コストが下がるのなら、日本国内の全ての企業が有利になり、海外にある企業には絶対に有利にならない。
 国内の投入コストを下げることは、産業育成の最良の方法だ、と著者は言う。

 確かに。産業保護よりは、こっちのほうがマシだ。ずっと平等だ。
 もちろん、投入産業の競争促進は、副作用も考慮しつつ行うべきなのはいうまでもないが。
 



 著者曰く、払われるべき給食費4210億円のうち、未納金額は22億円。0.5%だ(42頁)。
 しかもその中の42%が、失業による経済的困窮という正当な理由。
 すると、99.7%の人々は、ちゃんとルールにのっとっていることになる。

 誰だ!!
 給食費を払わない父兄がいる現代日本は、モラルが低下してる、なんていった奴は!!!!
 美しき国日本じゃんww



 なぜ日本の若い世代は、より貯蓄をするのか。
 
 著者は、日本人は貯蓄好きだから、などという文化決定論には与しない(46頁)。

 著者は、恒常所得理論と、ライフサイクル仮説(著者は、「ライフサイクル理論」だと強調している)で単純に解読できるという。
 要するに、?所得の変動度が高まっている、?恒常所得が低下している、?高齢で働けなくなる期間が長期化している、という以上の要因。
 確かに、若い世代であるほど、将来的にもらえる給料は前の世代に比べて少ないだろうし(労働環境が変化)、年金不安もあるし、寿命が延びるので働けなる期間も長期化すると予想されている。
 そりゃ、若い世代ほど貯蓄率が高まるのは当然だろう、と。

 ヘンな文化決定論よりはずっとマシな解釈と思われる。



文部科学省は、巨額の予算で、「全国学力・学習状況調査」を実施してるけど、それを使って、どのように子供の学力を引上げるのかは、殆ど分析していない(60頁)。

 イギリスでは、親の所得が教育格差を生む事実をちゃんと認識している。だからこそ、低所得者の多い学校に、重点的に予算を配分する(63頁)。その予算は、学校が自分の最良で使うことが出来る。
 所得の低い地域にある学校に多く予算を配分するなら、これは公平だ。

 苅谷剛彦先生も、およそ納得してくださるであろう。うん。



 グローバリゼーションは格差の原因か、について。
 著者曰く、日本の賃金格差の原因があるとすれば、それはむしろ、流通や外食や介護などの低賃金のサービス労働の拡大だという(79頁)。
 これらの産業は、海外とは競争していないので、グローバリゼーションが格差の原因とするのは、検討の余地があるという。

 グローバリゼーションという得体の知れない原因よりも、こっちの方がずっと分かりやすい。



 著者曰く、現行の保育制度だと、母親の所得が高くても、そのコストの大部分を税金で賄っているという(83頁)。
 それに対しては、?所得の高い家計からは実際に掛かるコスト分の保育料を徴収すべきであり、そのお金で保育園を作るべき、?コスト全額を負担する親の子供を優先して預かり、所得の高い母親により多く働いてもらうことで、より多くの税収を得られるようにしよう、と提案している。

 それに対しては、個人的にはソシアルとして、?料金は全て税金で取るのが原則であり、その税金の段階で累進課税を取ったほうがいい、?当然、どの子供を優先して預かるかは、原則的に無差別にすべき、と思う。
 ここは人によって意見が分かれるかも。