ミラノヴィッチ『不平等について』を読了。
あのトマス・ポッゲが推薦していたので、読んだ。
曰く、「楽しみ満載のこの本で、経済的不平等という深刻な主題について学んでみよう!」
特に面白かったところだけ。
ソ連などの社会主義国家について(61、62頁)。
ノーメンクラトゥーラ(社会主義国における支配階級)の特権は、仕事に付随しており、党綱領に抵触する反抗的な態度は、直ちに降格を意味した。
そして、降格すると、全ての特権を失う。
実は、最高幹部の賃金でさえ、一般労働者やサラリーマンと比べてもそれほど高くなかったのである。
(非金銭的な、別荘や食料配給優先権などの特権などはあった。)
そのため、貯蓄して頼りにできるような、私的財産を築くことはできなかった。
すると、どうなるか。
資産の蓄えもできず、所得と特権が仕事に結びついていたのなら、波風を立てたくない気持ちは非常に強くなる。
起こるのは、事なかれ主義(官僚主義)の蔓延である。
職務とそれに付随する特権は、結果、「人質」として作用したのである。
著者曰く、エリートたちが、その支配をイデオロギー的に正当化しようとする一方で、それに合致しない行動をとることの重大性こそが、社会主義における教訓である。
(社会主義なのに特権階級、という矛盾。)
そして、ウォール街の金融エリートたちも、この教訓を肝に銘じてしかるべきだ、と著者は言う(63頁)。
(金融危機以降の彼らの醜態を見よ。)
国籍と両親の所得階層、この二つの要因だけで、個人所得の80%を説明可能であるという(115頁)。
ちなみに、その他は、性別、年齢、人種、運、努力、勤勉さなどである。
生まれで、個人の所得がほとんど決まってしまう、という現実。
当然、その現実に抗おうとする奴らが出てくる。
先進国へ移民を試みる者たちである。
先進国へ入国するツテのない奴は不法に入国するしかない。
しかし、先進国も発展途上国も、こうした不法入国によって死んだ奴を無視する。
EUは、数百隻の高速モーターボートを使って、必死に上陸を試みるアフリカ・マグレブ諸国の人々を阻止している。
毎年二十万人もの人々が、(おもに夜間に)老朽船に乗って生命の危険を冒している。
そして、推定するに、数百名が命を落としている。
その死に関しては、欧州諸国もアフリカ・マグレブ諸国も、双方が申し合せたように沈黙を守っている。
名もなき人々が無視されたまま日々死んでいる。
その遺骸は、地中海の冷たい水の中に朽ち果てている(121頁)。
ちなみに、本書では、米墨間の国境フェンスにも、同じように言及している。
この非常な現実において、もし、こうした不法入国者を認めないというなら、どうすればいいか。
やはり生まれた国(発展途上国)自体を、徐々にではあるにせよ、富ませる方向しかない。
つまり、先進国側が発展途上国側の経済成長(&再分配)を助けることで、グローバルな格差を是正するという方法しかない。
その助ける(援助する)方法は様々に議論されているが、ここではそれには触れない。
米国では、上位1パーセントの富裕層の所得が国民所得全体に占める割合が、1970年代中ごろは、8%程度だった。
これが2000年代初頭には、ほぼ16パーセントに増加した(175頁)。
その結果、何が起こったのか。
所得の不平等が深刻化して、利用可能な莫大な金融資本がため込まれた(176頁)。
貯めこんだ者たちは、より有利な投資機会を求めるようになった。
そこで、金融機関に莫大な資金が殺到したが、良好な投資機会は不足していた。
彼らは、新規の融資案件を求めた。
いっぽう、中間層の賃金を上げる事が出来なかった政治家たちは、中間層が以前よりも多く稼いでいるかのように見せかける必要があった(177頁)。
どんな方法を使ったのか。
信用取引の敷居を低くして、間口を広げたのである。
すると、中間層の購買力は高まった。
彼らは、住宅ローンなどを増やし、クレジットカードの借金を膨らませていった。
貸し借りの需要は上手く合った。
貸す側は、投資先が見つかるし、借りる側は、お金を借りて消費が出来て、どっちもハッピーである。
好景気が続いた。
ずっと上手くいくはずだった。
この調子がずっと続く限りは。
だが、中間層が債務不履行に陥ったとたんに、アメリカンドリームは崩壊した(178頁)。
金融危機である。
著者曰く、金融危機の真因は所得分布における多大な不平等であり、この不平等がますます多くの投資待機資金を生み出したのである、と。
そして、(金持ちの)利益増大に利用されたのである、と。
中間層の所得拡大が不十分だという政治的な課題は、低利融資の間口を広げることで解決した、かにみえたのだが、結末はご存知の通りだ。
とすれば、何をしなければならないか。
問題の根本(「格差」)を解決することである。
(未完)