熱帯夜、「アンチ・リフレ派」をからかってみる -「上手い話」じゃなくて「常識」です- (追記あり)

 以前、リフレ派に対する反論などに対して、反批判(の紹介)を行いました。しかし、世の中には、まだまだ「アンチ・リフレ派」がいらっしゃるようです。典型的(プロトタイプ)な反論が寄せられている様なので、本の紹介なども含めて、書いてみようと思います。これです。

この本を読んで単純に信じてしまう人は、「なぜ学会で誰も発表しないのだろう?」と考えてみれば良い。

 岩田規久男編,『昭和恐慌の研究』って知ってますかね。この本を知らずに、学会云々をおっしゃっているのでしょうか。まさか。リフレ派をDisる前に、学会の探し方を勉強した方がいいかもしれません。

そんなに簡単で効果テキメンで素晴らしい金融政策があるのなら、とっくの昔に行われている筈だし、そもそもデフレにも不景気にもならない。

 「簡単で効果テキメンで素晴らしい金融政策」を出来る環境にあってもやらない奇怪な国こそ、我が日本国なのですね。世界の七不思議に、そろそろ入るはずです。
 そんな不可解な国の中央銀行を批判した書物として、上念氏の続刊『「日銀貴族」が国を滅ぼす』や、岩田先生の『日本銀行は信用できるか』があります。前者はさておいて、後者は絶対必読です。そもそも、リフレ政策自体、「とっくの昔に」高橋是清がやってるんですよね(というのが、上念本にも書いてあるはずなのですが)。

この本の読者には若い人が多いのだろうが、このリフレ論争は今から10年ほど前に散々議論されてリフレ派が負けて終わった話である。

 いくら年だからといって、自分に都合のいいように記憶を改変して、若者をたぶらかしてはいけません。
 おっしゃっているのは、たぶん、2003年の景気回復のときのお話でしょうな。この事態を見て、「リフレ派の予想はずれたー」とか考えておられるんですかね。
 とりあえず聞くけど、竹森俊平先生のことはご存知ですかね。かれのWikipediaの頁を見て分るように、「この景気回復は、政府・日銀の協力で円高阻止のための大幅な非不胎化介入が行われたことにより市場にマネーが供給され事実上のリフレ政策が行われたため」と考えるべきでしょう。
 岩田先生もこれと同じことを、いっていたはずです。(まあ岩田先生の場合、小泉改革のよかった所は「なにもしなかったこと」、銀行を潰すシバキアゲをせずに、米国との貿易の恩恵を享受したことである、というふうに『日本経済にいま何が起きているのか』で、いっていたような。) (注1)
 リフレ派から、一応反論はしているのです(これが正しいというのがこちらの判断)。それを終わった話にするのは、いくら年だからといって、老け込みすぎです。いくつになっても、聞く耳を持つことは大切です。ご自愛を。

金融のプロからはマトモに相手にもされていないし、真っ当な経済学者は「また始まったか」とウンザリしている。

 そもそも、貴方の指す「金融のプロ」というのは、マトモじゃないのでしょうね。そして、貴方の指す「真っ当な経済学者」には、いつもウンザリさせられます。前者で典型的なのは、藤沢数希「勝間さんのインフレ政策を実行するとどうなるのか」とかでしょうが。既にマトモな反論は出ています(注2)。後者は、池田ナントカさんでしょうね。まあ、これを見ればいいんじゃないでしょうか。

デフレは社会構造や国際環境の変化の結果であって、原因ではない。胃腸が弱って痩せている人に「痩せるのは良くない」と無理やり大量の食事を与えても、却って健康状態を悪化させてしまう。痩せているのは胃腸が弱った結果であって原因ではないからだ。

 なんとまあ、プロトタイプな反論。レトリックというのは、きちんと使いましょうね。リフレ派の主張って、貴方のレトリックを正確に用いるなら、「胃腸の【病気】で弱って痩せている人に、【胃腸の手術に耐えられるだけの体力を付けさせるために】食べやすい食事を与える」というのが正解ですな。
 つーか、リフレ派の見解だと、リフレ政策なしで「社会構造や国際環境の変化」の対応をしようとする人たちは、【胃腸の病気で弱っている人間に、真冬に暖も取らせず、栄養も不十分な状態で、手術しようとしている】、というふうに例えられましょう。

痩せているのは胃腸が弱った結果であって原因ではないからだ。

 「胃腸を直す」ことに反対するリフレ派は、いないんじゃないかな。むしろ推進派が多数派のはず。単に、手術に耐えるためには、体力必要でしょうよ、という話ですね。とりあえず、岩田先生の『「小さな政府」を問いなおす』を読んでみましょうね。

 最後に一言。リフレ派の主張って言うのは、「上手い話」じゃなくて、いわば「常識」なのです。プロトタイプな「アンチ・リフレ」発言をしちゃう人というのは、「常識」のない人たちだから、「上手い話」と「今すべきこと」の違いがつかないんでしょうな。(━_━)ゝ

 比較的マトモな反論として

インフレ期待がマイナスになり、実質金利が高止まりしている場合には、名目金利のコントロールにはもちろんゼロ%という限界があるが、(速水日銀総裁時代の市場状況を思い出して欲しい)その状況下で、日銀による資金供給政策でインフレを起こせるかは疑わしい。正直国の借金は最終的にチャラに出来ると説く筆者ならば、財政政策としての景気浮揚政策をきちんと行なった方がよっぽどインフレ期待を持たせる政策として、十分だと思う。

 というのがあるそうな(引用元は、ググって探してください)。
 最低限指摘すべき点として、?重要なことは、中央銀行(及び、財務省)がデフレ是正に向けて、2%前後のインフレ目標に沿って政策を行うことを、マーケットに明確に約束すること(目標は行政府が、手段は中央銀行が決めること)、?その上で、高橋是清のような「日銀の直接引き受け」という方法等をも検討すること、?リフレ派の中にも、初動的には、財政政策も用いることを提言する人(例えば、クルーグマン氏ら)がいること、の三つかな。(注2) これぐらいの反論なら、まあいいと思います。


(注1) 2001年以降の量的緩和政策に対する、リフレ派の総意は、「消費者物価指数の前年比上昇率が0%以上」じゃ足りない、2パーセント以上にしなさいよ、というものになるでしょう。
(注2) 詳細は、拙稿岩田規久男『日本銀行は信用できるか』(1)〜(3)をご参照ください。


(追記)

本件について田中氏の言動に問題があると感じているブログやツイッターをやっている方々は、田中氏やbewaad氏の政策的立場への賛否に係らず、はっきりとその旨を表明することが、第二のbewaad氏を生まない最善の道だろう。

との提起がありました(「続・最近の田中秀臣氏の言動について」『研究メモ』様)。
 じゃあ、応答しましょう。まず、こちらがリフレ派の主張に傾倒するきっかけは、田中氏のある著作でした。ただ別に、彼の本を読んでリフレ政策自体に興味を持ったのではなく、経済学で「遊べる」人がいるのだと知って、そこから興味を持ちはじめたのが実情です。以降、その他の優れたリフレ派の人々の著作を読み、リフレ派の主張に傾倒していった次第です(宮崎哲弥のリフレ派「転向」を知ったことが、大きかったと思います。素人なので、属人的であることは否めません)。
 本題ですが、こちらも、「田中氏の言動に問題があると感じて」います。例えば、非実在青少年問題のときの、彼の主張の語調には違和感を持ちましたし、以降の言動に悪しき高踏性が見られたのも事実です。また、そのような振舞いが、例えば同じ「リフレ派」に括られるだろう飯田泰之氏のブログには無いことを、改めてここで強調したいと思います。
 本件の問題点は既に指摘されているように、

メリットがなくても、デメリットがあっても堂々と実名でやるんだという人々が匿名ブロガーの匿名性を批判するのならばわかるが(度胸がなくて日和見ですみませんというしかない)、実名ブロガーであることによって日々社会的・金銭的利益を享受している人々が、実名にしたところで何の利益もない匿名ブロガーの匿名性を批判したり揶揄するのは滑稽というほかない。

という点に尽きるでしょう(「最近の田中秀臣氏の言動について」『研究メモ』様)。
 今後のリフレ派の行うべきは、彼以外にもリフレ政策(インタゲ政策などを含む)を支持している人物がいることを思い起こし、他者が知らなければ教えてあげることに尽きるでしょう。きちんと自分の頭で考える、ということが第一に必要なのは、まあ当然のことですが。
 今回の件をきっかけに、リフレ政策に失望者が出るようなことがないよう、最大限努めるべきでしょう。bewaad氏も、自身の事件をきっかけにリフレ政策が不当に貶められるようなことは、望まないでしょう。

 ちなみに田中氏以外で、リフレ政策(インタゲ政策)を支持している人物とはだれか。優れた紹介記事として、田中秀臣「リフレ派経済学MAP」(『ビジスタニュース』様)を紹介させていただきます。(-_-;)


(補遺1) 「常識」云々書きましたが、結局こちらが言いたいのは、リフレ政策論というのは、ボクシングで言うなら"赤コーナー"だということです。赤コーナーなのですが、観客には不評なのです。リフレ政策というのは実は手堅いボクシングをやる選手なのですが、なぜか人気がない、みたいな構図です。ボクシングじゃないけど、4連覇した頃のアーネスト・ホーストみたいな。

以上、2010/7/29 一部修正・追記