リチャード・ワイズマン『その科学が成功を決める』(2010年版)を読んだ。
内容は、
成功する自分をイメージする方法はむしろ逆効果!?子供の知能や才能をほめて育てると、とんでもない結果を招く!?集団での意思決定はリスクの高い決断になる!?巷に溢れる自己啓発法を科学的調査から徹底検証。その真偽を明らかにした上で、すぐに実践できて効果のある自己啓発法を紹介する。これまでの常識を覆す衝撃の一冊
というもの。
某密林の評では、「 広く浅い雑学集」と、みもふたもない書かれ方をしていたが、まあ、エビデンス付きなので、まあ許されてよいように思う。
以下、特に面白かったところだけ。
ほかの人のために金を使うほうが幸せ
自分よりほかの人のためにお金を使うほうがしあわせになれる (34頁)
科学的にはそうだと、著者は言う。*1
小さなプレゼントでもよい。
ほかの人のために使う数ドルは、最高に効果のある投資である。
現金がないなら、親切な行為を1日に5つ実行すればよい。
トルストイの「名言」
私たちが人を好きになるのは、相手からしてもらったことのためではなく、自分が相手にしてあげたことのためである (53頁)
育児等が比較的わかりやすい例であろう。
視点を変えよ
視点を変えてみることも、新たな解決法を見つけるのに役立つ。 (116頁)
たとえば「この仕事に大勢の目を向けさせるのは大道芸人が通行人の足を止めさせるようなものだ」と。
そのようにして、自分の仕事を相対化することが、新たな発見につながる。*3
感謝の効果
人生の中で自分が感謝することを三つ書き出す (193頁)
すると、ひと月ほどの間は幸福感が高まるという。
ただ、追試の結果は芳しくなさそうではあるが。*4
(未完)
*1:この手の話題では、大体の場合、Elizabeth Dunnの研究を根拠とすることが多い。その例として、以下も参照。https://www.afpbb.com/articles/-/2369188、https://psychmuseum.jp/show_room/for_others/、https://psychmuseum.jp/show_room/for_others/
*2: この言葉の出典は、トルストイ『戦争と平和』である。プロジェクト・グーテンベルクにある英訳版(http://www.gutenberg.org/ebooks/2600 )だと、
As Sterne says: ‘We don't love people so much for the good they have done us, as for the good we have done them.’
となっている(BOOK ONE: 1805 CHAPTER XXVIII)。マリヤが、セリフの中で、スターンの言葉として紹介している。このスターンとは、英国の作家のローレンス・スターンのこと。『トリストラム・シャンディ』の作者である。
川端香男里は、
トルストイは、例えばロマン派の文学を不自然と感じとり、その代わりすでに「過去」のものとされていた18世紀のルソー、ヴォルテール、スウィフト、スターンなどに親しみをもったのです。
と解説している(「「人はいかに生きるべきか」の探求」https://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/23_w_and_p/guestcolumn.html )。なお、この言葉に戦前の日本人にも着目した人があったようで、その点は、奥野久美子「恒藤恭、芥川龍之介の日露戦争 : トルストイの読書体験とあわせて」(https://ci.nii.ac.jp/naid/110009842479 )を参照。
なお、スターンのどの文献が元ネタなのかは、現時点では不明である。もしかしたら、そんな元ネタ自体が存在しない可能性もある。ここら辺は、岩波文庫版『戦争と平和』を読んでも書いてなかったので、どなたかご存じないだろうか。
*3: 「この仕事に大勢の目を向けさせるのは大道芸人が通行人の足を止めさせるようなものだ」というのは、「わざ言語」に近いものといえるかもしれない。ブログ・「Thinking Laboratory」は、わざ言語について、
わざ言語は目の前の課題をクリアするためのものでなく、長期的な観点で見た目標達成のためのものだとすれば、その本質は何か。それを一言で言えば、「気づきを得るための媒介」になる
としている(以下のURLを参照。
https://ubukatamasaya.hatenadiary.org/entry/20110717/1310912471 )。
*4: 日本での研究論文によると、
現代においても、感謝を感じることは当人の心理的適応や幸福感と密接に結びついていることが指摘されている。Emmons & McCullough(2003)は、過去 1 週間あるいは毎日、その週(日)に起こった感謝を感じさせた出来事を 5 つ記録させるという介入手続きにより、ポジティブ・ムードや人生に対する肯定的な評価が高められることを報告している。
その一方、「相川・矢田・吉野(2012)は日本の大学生で同様の手続きで追試を行ったが、感謝を記録することの効果を得ていない」(以上、伊藤忠弘「感謝を感じる経験と感謝される経験における感情」https://ci.nii.ac.jp/naid/120005695265 )。
また、
セリグマンらの研究では、毎晩寝る前に良いことを3つ書くことを1週間継続するだけで、その後半年間にわたって、幸福度が向上し、抑うつ度が低下する(うつの症状が減る)という結果が出た。
が、日本での研究では、「エクササイズの結果、TGT 群の肯定的感情の得点がエクササイズ期間の終了直後に上昇したものの、その1ヶ月後には低下し、効果は持続しなかった」(以上、 関沢洋一・吉武尚美「良いことを毎日3つ書くと幸せになれるか?」https://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/13j073.html )。
正直、追試の結果は芳しくない。少なくとも、日本での追試では。