「脳科学」批判、あるいは骨相学の子孫たち 榊原洋一『「脳科学」の壁』(1)

榊原洋一『「脳科学」の壁 脳機能イメージングで何が分かったのか』講談社 (2009/1/21)

 本書への書評については、すでに存在しています(たとえば、『お父さんの[そらまめ式]自閉症療育』様)。
 この本の中身を要約すれば次の用に言い換えられるとおもいます。「ガルの骨相学」の子孫としての「脳機能局在」論を批判すること。「脳機能局在」とは、人の特定の機能(心的、身体的行為)が脳の一定部位に局在して対応している、という考え方です。
 たとえば、著者は、「脳機能局在」の一種として、養老孟司 の「唯脳論」を批判しています(三九〜四一頁)。具体的には、脳の中に意識が生じた理由に関する彼の議論に対してです。養老は、脳の深部に「外界からの刺激が届かない神経細胞群」を仮定し、刺激がなければ死んでしまう神経細胞が、生き残るために細胞同士で刺激し合って、これにより脳に意識が発生すると仮説を立てます。要するに、脳には、外界からの刺激を受けない意識専用の神経細胞がある、と述べているのです。
 これに対し著者は、意識が外界からの刺激から独立していないことを、次のように批判します。腰椎への麻酔薬が事故で脳へ流れてしまい、「脳に入るすべての末梢神経からの刺激が麻酔薬でブロックされ」た場合、麻酔薬が脳の内部に入っていなくても意識を失う。つまり、脳には、外界からの刺激を受けない意識専用の神経細胞なんてない、と述べているのです。
 (疑似科学として、「脳内革命」と「ゲーム脳」も取り上げて、批判し、その社会的な悪影響と、科学者(脳科学者含む)たちのそれに対する対応のまずさを指摘しています)。
 CTやMRIfMRIなどの、「脳機能イメージング」も、「脳機能局在」の子孫です。これは、脳を流れる血流の量を測定して画像化する技術です。
 ある研究者(これは川島隆太教授のことと思われます)は、この「脳機能イメージング」の技術を用い、次のように主張します。音読と単純計算は脳の前頭葉の血流が増大させ、認知症による認識能力の低下を抑える効果があるから、一般人でも音読や単純計算で認知機能が高まる、と。
 これに対して、著者は次のような反論を行います。

(続く)