「よいデフレ論」は新聞社には好都合 岩田規久男『日本銀行は信用できるか』(1)

岩田規久男日本銀行は信用できるか』講談社 (2009/08)

■デフレは、中国のせいか?ITの技術のせいか?■

 デフレになったのは、中国から安いモノが大量に輸入されたからだとか、ITなどの技術進歩のためであるといった説明のほうが分かりやすいであろう。しかし、この説明では、日本同様に、あるいはそれ以上に中国から安いモノを輸入し、日本以上にIT革命が進んでいる国がデフレになっていないという事実を説明できない。 (9頁)

 デフレは、中国からの輸入のせい、ITなどの技術的な進歩のせい。たしかに、こういうわかりやすい説明は、経済学の素人の人から、専門家まで(自称「エコノミスト」たちも含め)、たくさんの人がしてしまいます。しかし、それは本当でしょうか。
 なぜ、日本と同じように中国から輸入し、IT化も進んでいる他国では、さほどデフレではないのか。ここらへん、説明できる人はいるのでしょうか。(注1)「経済構造が旧態依然としているのが原因だ。構造改革は必要云々」という解答が返ってくるかもしれません。
 もし仮に、「経済構造が旧態依然としているゆえに、構造改革は必要」という論理が正しいなら、それはそれで必要でしょう (著者も、『「小さな政府」を問いなおす』で構造改革の必要自体は述べています。)。しかし、構造改革論を唱える人たちの言う「財政・金融政策がだめだから構造改革」という問いは妥当なのでしょうか。
 構造改革と金融・財政政策は両立しうるという考えの著者は、そのような主張は肯んじません。本書は、現在の日本銀行の問題点と改善案を、インタゲ政策の解説を交えながら提示してくれる、経済学初心者にも優しい目の平易な語り口の一冊です。

■よいデフレ論って、新聞社には好都合ですな■

 デフレでほとんどのモノの価格が下がっているというのに、新聞社はどこも新聞の価格を下げなかった。他のモノの価格がすべて下がっている時に、自分が売るモノの価格だけは下げずに済むほど、自分にとって都合のいいことはないのである。 (90頁)

 よいデフレ論を展開した新聞社に対する、著者の皮肉です。痛快です。
 なお、日本経済新聞は、昨年(と書かねばなりません)12月に、駅売店やコンビニエンスストアなどで販売する新聞の価格を、20円値上げしました(正確には2010年から)。12月中間期の赤字転落が響いたと聞いております。その原因については、地方新聞の方の値上げも含めてですが、?原材料の値上げ、?新聞の販売部数減少といわれています。
 ですが、?については、「主要古紙国内価格推移表 および関東商組輸出価格推移表」(『共販事業委員会』様報告)を見ると、国内の古紙の価格は2008年1月以降高止まりし、翌年1月ごろから価格は低下し、急騰(2007年1月)以前の水準に戻りつつあるようです。輸入古紙についてはデータが途中で無いようですが、輸出新聞の量についても、輸入雑誌や輸入ダンボールの推移から見ると、現状安定へ向かうものと考えられます(詳細について、詳しい方は教えてください)。
 以上のことから、今回の20円値上げについては、?が主原因とは到底言いがたいはずです。
 むしろ原因として考えられるのは、?のほうです。「月次における4大既存メディアとインターネット広告の広告費前年比推移(2009年9月まで)」(『Garbagenews.com』様)のグラフなどを見ると、やはり今回の値上がりの原因は、?を原因とする、広告費の低下にあるのではないかと思います。
 やっぱりデフレは関係ないのですね。(日本の新聞の販売価格の是非については、小田光康「日本の新聞は割高?米国では高級紙でも一カ月920円!」(『livedoor ニュース』)などをご参照ください)。

(続く)


(注1) 高橋洋一インフレ目標政策への批判に答える」(『RIETI』様)は、「最近、OECD諸国で中国からの輸入の対GDP比率はどの国でも上昇しているが、デフレになっているのは日本だけである。」と述べています。
 なお、インタゲがハイパーインフレを招くという俗論に対しても、「実際に、この10年ほどの間に、インフレ目標政策を採用している国で、ハイパーインフレになった国はひとつも存在しない。」と反論しています。



(追記) 『週刊SPA!『飯田泰之の政治家に会いたい! 対談記事』には、「飯田泰之の政治家に会いに行こう!」という記事が載っています。飯田氏と衆議院議員山本幸三氏の対談です。
 そこでは、「製造業と農作物というと一番円高の被害が大きいところですね。1ドル90円では製造業はやっていけません。雇用も海外に逃げる一方です。農作物も同じ。」と、円高の弊害が製造業と農業に来ること、このことが指摘されています。
 また、日銀・白川総裁についても、山本氏曰く、「彼はシカゴ留学から帰ってきたとき、マネタリーアプローチという為替レートはお金の量で変わるんだと主張していたのに、今はお金の量は関係ないと言っている。」と述べています。これが日銀クオリティですね。