磯前順一『ザ・タイガース 世界は僕らを待っていた』を読んだ*1。
内容は紹介文の通り、
ザ・タイガースは1960年代後半の音楽ブーム「グループ・サウンズ(GS)」を牽引したトップグループ。本書は、ジュリーこと沢田研二をはじめとしたメンバー達の上京からグループ解散までの約五年にわたる全軌跡を、膨大な資料を駆使し活写する。ザ・タイガースの想い、苦悩、そしてあの時代がよみがえる、渾身の一冊。
というもの。
宗教学者による、異色の(?)ザ・タイガース論である。*2
出た当時、評判が良かったように記憶している。
『ザ・タイガース』入門として、ぜひどうぞ。
以下、特に面白かったところだけ。
ザ・タイガースの名付け親
京都から上京したばかりの無名の若者たちが異論を唱えることは到底無理であった。 (60頁)
ザ・タイガースと名付けたのは、すぎやまこういちである。*3
あの内田裕也でさえ、反論できなかった。
当時、すぎやまは、1965年にフジを退社して、日本初のフリーディレクターとして『ザ・ヒットパレード』の番組制作を担当していた。*4
東大出身で絶対的な権限をもつ番組プロデューサーだったのである。
演奏のグルーヴ
メチャクチャ下手でしたね(笑) (95頁)
橋本淳のザ・タイガースの演奏に関する評価である。
ただ、橋本の言う上手い下手は、どんな基準か。
それは、ブルー・コメッツのような、メンバー全員が同じテンポで狂いなくリズムを刻むことができ、他の歌手のバックバンドが務められるようなグループを上手い、とする基準である。*5
遅れたり進んだり、各楽器のリズムにずれが生まれることでグルーブが生まれる事実を、クラシック音楽を基準とする橋本やすぎやまは、理解できなかったのだ、と著者は述べる。
演奏は誰がやった?
タイガースは沢田のヴォーカルと、メンバーのコーラスを吹き込むだけになった。 (99頁)
スタジオ・ミュージシャンによって演奏されるタイガースのシングルは、少なくとも、「モナリザのほほえみ」から「銀河のロマンス/花の首飾り」まで続いたという。*6
・GSイチのコーラスの音域
僕らはサリーの低音から、かつみの高音まですごい幅があって、これは貴重なもんですよ。 (116頁)
沢田(ジュリー)の言葉である。
沢田はセカンドテナー、加橋はテノール、岸部(サリー)は本格的なバスを担当した。*7
加橋と岸部は『君だけに愛を』で、輪唱して歌っている。
この音域の広さは、スパイダースもブルー・コメッツも出来ていなかったという。
真ん中の音をやるタローが一番難しかっただろう、と沢田はコメントしている。*8
(未完)
*1:厳密に言うと再読。
*3:サリー(岸部一徳)は2018年2月のスポーツニッポン紙のコラム「我が道」で、次のように回想しているようだ。
上京してまもなく、フジテレビの音楽番組「ザ・ヒットパレード」に出演することになった。作曲家のすぎやまこういちさんがファニーズと名乗っていた僕たちに「グループの名前は、ザ・タイガースがいいんじゃない?」と提案した。
以上は、ウェブページ・『Julie's World』の記事(http://julies.world.coocan.jp/wagamiti.html )から引用した。
基本的なこととはいえ、念のため、引用した次第である。
*4:すぎやまは、音楽をテレビ的に見せるために、カメラマンを含むスタッフにも楽譜が読めることを要求した。歌詞やメロディーに合わせて、カット割りを決めるという演出法に対応するためであったという(橋本淳の証言に依拠)。以上、太田省一「視るものとしての歌謡曲 七〇年代歌番組という空間」(長谷正人編『テレビだョ!全員集合 自作自演の1970年代』(青弓社、2007年)、59頁)に依った。じつにプロフェッショナルである。
*5:「楽器間の演奏タイミングの微少な時間差がグルーヴ(音楽に合わせて体を動かしたくなる感覚)を喚起する」という説の実証を試みた論文が日本にも存在している。
その論文、松下戦具,野村真吾「楽器間の時間差がグルーヴを喚起する効果の心理物理学的検討」(https://ci.nii.ac.jp/naid/130005481007 )によると、グルーヴは、「人が知覚できる最小の時間差」であり、「潜在・顕在の境界付近の時差で発生」するという。認識できるかできないかぎりぎりの差なのである。
*6:ファンの間でも、スタジオミュージシャンの存在は疑われていない(以下順に、ブログ・「花風林」の記事http://hanahuurin.blog62.fc2.com/blog-entry-73.html、及び、ブログ・「夢の岩」の記事http://blog.livedoor.jp/yopparaishibuya/archives/65403064.html より引用。)。
バンド演奏とは言え、こんなにきっちり正確な演奏はタイガースのメンバーが出来るはずがなく、スタジオミュージシャンの演奏ですが、良い演奏ですね。
確かにタイガースの初期シングルはスタジオミュージシャンの演奏によるものが多い。
*7:ザ・タイガースの武器の一つがコーラスの音域だった点は、すぎやまこういちも指摘している(瞳みのる(ピー)のウェブページより、読売新聞2013年10月4日付の記事「タイガース 完全復活への道」(https://www.hitomiminoru.com/img/pickup/13/131004yomiuri_01.pdf )を参照)。
なお、沢田のコメントの出典は、2008年のNHK FMの「今日は一日ジュリー三昧」と本書にある。