2009-01-01から1年間の記事一覧

「日台戦争」あるいは、「芸」のためのガイドブック 特別番外編(0)(本田善彦『台湾総統列伝』)

http://d.hatena.ne.jp/higeta/20090509/p1 に捧ぐ■はじめに■ 「コメント欄の容量にも限りがあります」とブログの管理人が書いているのに、なかなか止められない人はいるものです。まるでアメリカが止めても入植をやめなかったイスラエルのようです(もしか…

「漢民族」とは何か?、ある「台湾人」をめぐって 番外編(3)(本田善彦『台湾総統列伝』)

■?に対して■ 次に移ります。NHKの例の番組で、台湾人のある人物について、「中国福建省から移り住んできた漢民族」との表現を行ったことに対して、批判が挙がりました。果たして、この人物に対して、「漢民族」と表記することは、妥当なのでしょうか。 具体…

「日台戦争」・「台湾征服戦争」が「戦争」であることの妥当性 番外編(2)(本田善彦『台湾総統列伝』)

■?について■ 次に、「日台戦争」(「台湾征服戦争」)という表記の妥当性の問題です。先述したとおり、学術的用語の問題ですので、台湾の人々が聞いたことがない云々等は、大きくは関係しません。また、「日台戦争」という用語を、この事件に対して使うこと…

1910年日英博覧会の「展示」への「人間動物園」という表記の妥当性 番外編(1)(本田善彦『台湾総統列伝』)

なにやら、「NHKスペシャル シリーズ 『JAPANデビュー』アジアの“一等国”」という2009年4月に放映された番組に対して、「抗議」云々があったそうで、wikipediaの項目を見てみました。その「批判」された点は大まかに三つ。 ?1910年にロンドンで開かれた日英…

侯孝賢の『悲情城市』のはなし 本田善彦『台湾総統列伝』(5)

■侯孝賢の『悲情城市』について■ 蔣経国は、70年代以降民主化を進め、国民党以外の政治勢力の活動も容認されるようになります。そして彼の死後、李登輝が政治的実権を着実に握ろうとしていた1989年に、公開された映画が侯孝賢の『悲情城市』です。87年には…

ニ・ニ八事件と共産主義者たち 本田善彦『台湾総統列伝』(4)

■ニ・ニ八事件、及び相互不信の問題■ 本書でも、ニ・ニ八事件は取り上げられています。本件のいきさつについて、引用できるものを孫引きしようと思います(矢吹晋「映画「悲情城市」と田村志津枝著『悲情城市の人びと』」(『蒼蒼』98 年 2月10日、逆耳順…

台湾のアイデンティティと、中国共産党の存在 本田善彦『台湾総統列伝』(3)

■本書に対する批判に対する反批判■ 著者の第五章に関しては、すでにウェブ上に書評が存在しています。これに突っ込みを入れなら、本書の著者の主張を見ていきましょう。その書評というのが、「書評『台湾総統列伝』−「中立的視点」を斬る」です(この書評の…

蒋介石の「日本精神」 本田善彦『台湾総統列伝』(2)

■蒋介石の「日本精神」■ 本書では、父親・蒋介石についても、いろいろな情報を載せています。 例えば、台湾・中華民国での経済的基盤について。日本側が残した資産は、その多くが政府と国民党の資産となります(11頁)。 たしかにこれは常識的ですが、さら…

蒋経国による台湾民主化の行方 本田善彦『台湾総統列伝』(1)

・本田善彦『台湾総統列伝 米中関係の裏面史』中央公論新社 (2004/05) 米中両大国とのあいだで揺れる小国・台湾の歴史が、国家のトップである総統の「列伝」を通して描かれています。列伝に描かれているのは、蒋介石、蒋経国、李登輝、陳水扁の四人です。こ…

外国人犯罪に対する正しい態度 番外編(4)草野厚『政権交代の法則』

■80年代後半における外国人犯罪とグローバル化の関係(の続き)■ 87年から93年にかけての来日外国人の一般刑法犯の検挙人員の方が増加傾向にあり、それ以降一般刑法犯の検挙人員のなかで来日外国人が2%程度の割合を占めることとなります。しかし、8…

外国人犯罪とグローバル化 番外編(3)草野厚『政権交代の法則』

■来日外国人犯罪増加・凶暴化論へ反論してみよう■ 来日外国人犯罪増加・凶暴化論への反論、早速やってみましょう。凶悪犯(殺人・強盗・強姦等)における来日外国人の割合は2004年で5.6%とされていますが、一般刑法犯の2.3%に比べると、2倍以上です。 2…

外国人犯罪「凶悪化」はほんとうか 番外編(2)草野厚『政権交代の法則』

■「凶悪化」の実態■ 「特に凶悪犯罪等が犯罪白書で問題視されている」という風にWikipediaでは言われています。実際どうなんでしょう。 過去データですが、警察庁統計の中の「来日外国人犯罪の検挙状況(平成16年)」によると、平成12年から16年まで、「…

「来日外国人の犯罪」を問題にする前に 番外編(1)草野厚『政権交代の法則』

■来日外国人の「犯罪」■ 「来日外国人による犯罪も、過去一〇年間で二倍になったことが犯罪白書(〇七年版)からも読み取れる。」(207頁)と述べています。なんか、アバウトな言い方です。本当でしょうか。軽く調べて見ましょう。 まず確認しないといけ…

民主党シンパじゃないが政権交代はさせたい人へ 草野厚『政権交代の法則』(2)

■公平な視点■ 本書詳細については、ご自分でお読みくださいとしか言いようがありません。所々、有益な情報が入っていたりするので、ディテールも楽しめるはずです。 例えば、番記者が、派閥のメッセンジャーとして機能した面があるといいます。「安倍首相が…

さよなら「擬似政権交代」、あるいは自民党「派閥」の歴史 草野厚『政権交代の法則』(1)

・草野厚『政権交代の法則 派閥の正体とその変遷』角川グループパブリッシング (2008/8/10)■骨子のみの要約■ 本書を要約すると、こんな感じでしょうか。 著者は「ねじれ国会」出現の後の、従来の自民党による「擬似政権交代」の限界を指摘します。そして、い…

【自己責任論=精神論】と「濫給」問題 湯浅誠『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(5)

■マクロ経済からの視点■ ならばどうすればいいのでしょうか。「自己責任論批判の作法と戦略」(『こら!たまには研究しろ!!』様)の意見は、これまでの説得法とは別のものです。「若年失業率がこれほど高く,有効求人倍率も悪化の一途をたどるなかでは全員…

自己責任論者への説得方法を考える 湯浅誠『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(4)

■「溜め」を用いても説得は難しい■ しかし、努力というものは、その範囲が過剰に求められがちです。たとえ、「溜め」が恵まれない境遇でも、これを努力で乗り越えろ、という風な考えは残存します。これが、無責任な発言なら、無視してもよいのです。 しかし…

自己責任論における「努力」の問題 湯浅誠『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(3)

■「溜め」による自己責任論批判■ 本来、昨日分で書評の範囲は終わっているのですが、一応重要なことですので、自己責任論における「努力」の問題、及びその他について少しだけ書きたいと思います。 自己責任論に対する著者の考えは、wikipediaに概要がありま…

なぜ日本には、「シェルター」が少ないのか -宗教に関して- 湯浅誠『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(2)

いつ経済的な転落を経験するかも分らない身の上ですので、備忘録のように、本書の内容を書いていきました。しかし、本書の内容は、いかに生活保護の申請をするか、ということにとどまりません。この本の著者は、「自立生活サポートセンター・もやい」の事務…

借金があっても生活保護は受けられる 湯浅誠『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(1)

どうすれば生活保護を勝ち取ることができるのか湯浅誠『あなたにもできる!本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』同文舘出版 (2005/08) 実のところ、本書の内容については、『京都府職員労働組合』の頁に、書いてあります。抜粋すると、・その1 生…

保守(ホシュ)主義へのイロニカルな礼賛 斎藤美奈子『それってどうなの主義』(3)

■教育基本法について(の続き)■ なるほど。実に素晴らしい意見だと思います。まず、「左翼教師」に、生徒に「平素は国旗・国歌を無視する「心」を教え続ける」方法を暗に教えてやり、第十条の「教育は,不当な支配に服することなく・・・」と言う条文がまだ…

自然離れと教育基本法 斎藤美奈子『それってどうなの主義』(2)

■自然離れについて■ 通常、子供の自然離れの原因としては、子供の周りの自然の少なさが、よく指摘されていました。しかし、著者は、岡田朝雄氏の意見を引いて(192頁)、次のように言います。「1970年代以降、列島改造論によって開発が進むとともに、…

「あいつの待遇落とせ」ではなく、「俺たちの待遇上げろ」 斎藤美奈子『それってどうなの主義』(1)

斎藤美奈子『それってどうなの主義』白水社 (2007/02)本書の内容については、『一本釣り BOOK&CINEMA』様も書評されています。 本書は、文の集成ですので、その本から何を取り上げたかで、その人の興味なども分るかと思います。ちなみに、先の評者は、次の…

「快楽による堕落」というイメージ、及び「労働」における苦痛 番外編4(藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』)

藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』(4)へよせて 「快楽による堕落」というイメージについては、安楽への全体主義の後継としての【動物化】の議論にも同じことが言えるかもしれません。 『受動的な健忘』様は、次のように述べています。それでもオ…

【「安楽」への全体主義】と【時間をかけること】 番外編3(藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』)

藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』(4)へ寄せて 藤田省三はデルス・ウザーラについて、「マルクス主義のバランスシート」で言及しています。 デルス・ウザーラとは、20世紀初頭のシベリアに生きた漁師で、ロシアのシベリア探検隊の案内を引き受…

日本国憲法と【納税の義務】 番外編2(藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』)

番外編1(藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』)へ寄せて 「税金を納める」という義務を権利と見誤った人の割合が42.2パーセントにも達しているのである。これは義務意識の浸透を表しているのではなく、憲法上の権利と義務の分別という、公の基本…

政府(ガバメント)と国民国家(ネーション・ステート)の混同 番外編1(藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』)

藤田省三『全体主義の時代経験 (著作集6)』(1)へ寄せて■宮崎の主張に対する再検討■ 絶賛した後ですが、宮崎哲弥の2000年の「世界価値観調査」を用いた主張を、検討します。その主張とは、「過度の国家依存に傾(かし)いだパラサイト・ナショナリズム…